Short Story

□傍にいて
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こういう時は、どうでもいい話をするに限る。多分、大野さんから話を振ってくる事は無いだろうけど。


「相変わらず眠そうですね」
「ん、まぁ少しな」
「本当にいつも眠そうですもんね」
「別にいつもじゃねぇぞ」


大野さんの瞳から俺の最も苦手とするものが消える。よし、これでいい。


「……にのは、大丈夫か?」


予想外の発言に、思わず息を呑んだ。意外と鋭いこの人がその事に気付かないはずが無い。

どうしてそういう事聞いてくんの。
俺が聞かれたくないの、分かってるくせに。
いや、別に聞かれる事自体はいいんだよ。大丈夫ですよ、なんておどけたように言っておけば、そこで話は終わるから。
だけど、こんな風に穏やかな、それでいて少し切なそうな表情で聞かれたら、上手くはぐらかす事が出来ない。


「……まぁ、はい」


結局、曖昧に答える事しか出来なくて。それが大野さんの表情を硬くさせるのは分かっているのに。
思った通り難くなる大野さんの表情に、苦笑いを返すのが精一杯だった。


昔から、そうだ。ぼーっとして何も見ていないように見えて、意外と周りを見ているこの人は何らかの変化に聡い。とは言っても、それは本能的に察知しているものらしく、本人はそれをただの違和感としてしか認識していないのだけど。


俺がこの厄介な痛みを抱えている事は勿論メンバーは知っている。痛みがピークの時はみんながさりげなく俺を助けてくれる。特に大野さんは、昔から隣にいるからか、俺の調子が悪い時はやけに俺の面倒を見たがる。

何も言わず、俺の傍をぴたりと離れず、俺の身体がふらついている時は支えてくれる。それが嬉しいと思うと同時に、どうしたって罪悪感に襲われる。

 
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