Short Story

□静かな愛情
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で、気付けばキッチンに立つ俺の隣には普段と変わらない様子の大野さんが立っている。
なんだってんだ。どうしてこうなったんだ。
とりあえず、この人の思考回路には全くついていけません。


「……何で手伝う気になったんですか?」
「ふふ、何でだと思う?」
「分からないから聞いてるんですよ」
「考えてみてよ〜」


そう言われて素直に考えてみるけど、結局考えは何も浮かばない。


「……分かりません」
「……かず、何でおれがかずん家に来たと思ってんの?」
「え……暇潰し、ですかね」


俺の返しに、大野さんは眉間に皺を寄せた。
あれ、これ困ってる時の表情だ。なんか困る所あったか?


「かずって案外鈍いよなぁ」
「なっ!?あなたにだけは鈍いなんて言われたくないですよ!!」
「かずと一緒にいたいからに決まってんだろ」


あ、反則。ずるいよ、そんな事言うなんて。
楽しげに俺の顔を見てるって事は、俺の顔は真っ赤なんだろうな。


「……絵、描いてたくせに」
「だって、かずを描きたかったんだもん」
「……嘘ばっか」
「ほんとだって〜」


そんなの、知ってますよ。
本当はちゃんと分かってるんです。

あなたがゲームをする俺を見ながら、俺の絵を描いていた事くらい。
久々のオフを俺と一緒に過ごすために俺の家に来てくれた事くらい。
俺の隣にいたいと思ってくれてるから、料理を手伝うって言った事くらい。

あなたの温かな気持ちに触れる度、嬉しくて、幸せで、どうしたらいいか分からなくなるんですよ。
俺はあなたに、あなたが俺にくれているのと同じ愛情を返せているんですかね?
時々、どうしようもなく不安になるんです。
その度にあなたがくれる静かな温もりに救われるんですけど、ね。

なかなか自分の気持ちを表してくれないあなただけど、俺はそんなあなたにベタ惚れなんです。

あ、後で絵を見せてもらいましょうかね。
皮肉混じりの愛を歌いながら。



((本当は愛情に気付いているけど、気付かないフリをする皮肉屋さん。))



End. 

 
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