Short Story

□ENVY
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静まり返った部屋の中で、心の中の負の感情を押し出すかのように盛大に息を吐き出す。その行為にまるで効果は無く、ただ虚しさを増すばかりだった。

見なければよかった、と心底思う。
呑気に流れるCMにさえ腹が立つ。リモコンでテレビの電源を切り、それを乱暴に机の上に放り投げた。物に当たるなんていつ振りだろうか。

普段、大野さんが他の人と絡んでいる所を見てバカみたいに嫉妬しているが、心の中の嫉妬をここまで鮮明に感じるのは珍しい。身体を焼かれるような感覚がこびりついている感じがする。


原因は、翔ちゃんの冠番組を見たせいだ。
時間があるから見てみよう、なんて思ったのが間違いだったのかもしれない。

最初はよかったのだ。翔ちゃんの私服やホテルの部屋の様子が映っていたり、デビューの時の事とかを話していた。なかなかに面白かった。ダサいとあんなにも言われるアイドルも珍しいとは思ったが。


問題だったのは、大野さんと潤くんが翔ちゃんの部屋に乱入した時だった。
二人が酔っているのがすぐに分かった俺は、やばいな、と直感的に思った。

そして、案の定大野さんは翔ちゃんの首をおふざけ程度に絞めたのだ。いつもよりもふにゃふにゃな笑顔を浮かべて、酒のせいでいつもよりも更に垂れ下がっている目で、翔ちゃんを見ていた。
それは予想していたにもかかわらず大きな衝撃と共に苦痛を俺に与えた。


頭ではよく分かっているのだ。大野さんは酔っ払うと他人に甘える癖がある。たまたまあの場にいた翔ちゃんに対して甘えたにすぎない。同じグループのメンバーなのだから何もおかしくはない。

だけど、頭で理解するのと心が納得するのは全くの別物だ。
大野さんが翔ちゃんに甘える姿なんて、一瞬たりとも見たくなかった。


何で俺はこんなにも嫉妬深いのだろう。大野さんの事に関しては嫉妬の塊のようになる自分が嫌だ。大切なメンバーにでさえ妬いてしまう自分が、感情を抑え込めない子供っぽい自分が、何よりも嫌なのだ。

決して自惚れでは無く、妬く必要の無いくらい大野さんは俺を愛してくれている。
それでも、臆病者の俺はすぐに不安になって、粋がった子供のように嫉妬してしまう。
いつか、こんな俺に嫌気が差すのではないかと不安になる。それは有り得る未来で、むしろその方が大野さんの将来を輝かしいものにするという事が嫌になる程分かっているから。
大野さんは俺みたいな人間には勿体無いくらい素晴らしい人なのだ。

 
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