Short Story

□無意識の領域
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隣から楽しそうな声が聞こえる。いつもは心地良いはずのそれは、今のおれにとっては少しだけ神経を逆撫でする要素を含んでいた。

顔は真正面に向けたまま視線だけ隣に向けると、そこにいたのはおれの可愛い恋人。その姿を見て溜め息を吐きたくなる気持ちをぐっと堪えた。
今は収録中だ。余計な事を考えるな。


気持ちを落ち着かせようとした矢先、ふと視線が下の方へと移動する。見なければよかったと即座に後悔する。
いつも以上に惜しげも無く晒されている足は、そこら辺の女の子よりも細くて綺麗だと思う。贔屓目を抜いても、だ。


はっきり言おう。
何でそんな衣装を着ているんだ。


それが衣装さんに渡されたものだと言う事は分かっているし、それをそのまま着るのは当たり前だ。仕事なんだし。
だけど、そんなに綺麗な足を、こんなにも大々的に晒されるというのは、気分が良いものではない。

今回ばかりは衣装さんに、かずにこんなに足を露出させて一体何を目指しているのか、と問い詰めたくなる。
かずは可愛くて、その上足も綺麗だから、そういう衣装が映えると思っているんだろう。
それは正解だ。かずによく似合っている。こんな衣装に身を包んだかずを見ていると頬が緩みそうになる。


いや、違う。話が少し逸れた。
確かに今日の衣装はかずに似合っている。
だけど、おれがこうも気にしている原因はかずにある。

かずは計算高いように見えるけど(実際計算高い所もある事はある)、その本質的な可愛さには案外本人は気付いていない。
ふとした瞬間に見せる行動が可愛いっていう事にかず自身が気付いていないという事が問題だ。


きっとかずに言ったら、それも計算の内ですよ、なんて笑うんだろうけど、今のそれは計算ではないだろう。
例えば、その口元を小さな手で隠す仕草。
例えば、脱いだパーカーを肩にかける姿。
口元を手で隠すのはかずの癖だし。パーカーを羽織るようにしているのも、パーカーを脱いだらちょっと寒かったから肩にかけているだけなんだろう。それが可愛いとは、きっと全く気付いていない。

 
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