Short Story

□自己愛に欠ける人
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あいつはいつだって自分の事を過小評価している。それはもうずっと昔から。多分、おれと出会う前から。


おれのどこがいいのか、あいつはずっとおれに付き纏っていた。凄い、尊敬してる、なんて何度言われたか分からない。

最初は、正直うっとうしかった。悪い態度を取り続けるおれに、何故こうも付き纏うのか。何故こうも尊敬の眼差しで見られるのか。
それが不可解で、嫌だった。


その思いは変わらないと思っていたのに、あいつが傍にいない事が違和感へと変わっていた。
あいつが他の奴と楽しそうに話している姿に何故だか無性にイラついて。お前の隣にいるのはおれじゃないのに、何でそんなに楽しそうに話してんだ、なんて思って。

いつの間にか、あいつを好きになっていた。


あいつへの想いを自覚してからは、あいつを誰にも取られないようにあいつの傍にずっといた。と言っても、昔からあいつの隣にいる事が多かったから、周りから見たら何も変化は無いように見えただろうけど。


あいつだっておれの事が好きなはずなのに、あいつは色の付いた視線を送るだけで自分から動こうとはしなかった。

あいつの背後にはいつもどんよりとしたもんが纏わり付いていて、あいつは常にそれに押し潰されそうになっていた。それを何かに例えるとしたら、劣等感、が一番ぴったりだっただろう。


好きになった奴にすぐに好きと言うおれにしては珍しく、何日も考えて、悩んで。仕舞いには頭が痛くなった。
それから、やっぱり伝えようと決意して、おれからあいつに言ったんだ。
ただ、あいつが好きだった。


今でも忘れない。あの時、おれの心は本当にあいつに囚われたのだから。

おれの好きだという想いに、あいつは目を見開いて、それから悲しそうに笑ったのだ。

 
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