Short Story

□リフレイン
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多分、それを言ったのは、まだ君を知って間もない頃だっただろう。


君は、不思議な奴だった。
掴みどころが無い、と言ってもいい。


君は人懐こくて、笑顔が可愛くて、器用で、とにかく人の懐に入るのが上手い。つまり、人から好かれる人で。

だから、君の事を不思議な奴だと思っているのはおれくらいだったと思う。


だけど、時々、君は独りだった。
この場にいるのに違う場所を見ているような、そんな目をしていた。それがまるで他人と決定的な壁を作っているかのようで。

だからだろう。君の事が気になったのは。
他人を気にするなんて、あの頃の自分からしたら考えられない事だった。本当に興味のあるものにしか意識を向けた事は無かったのだから。


まどろっこしいのは苦手だから、本人に直接聞いてみた。すると、君は驚きもせず、何も考えていないような空っぽな目で、今よりも少し高い声を放ったのだ。


「別に、何も」


人との距離を気にする君が言ったとは思えない言葉だった。いや、それは意味の無い音のようだった。
全ての人を拒絶し、突き放すような音だった。それはただただ無を広げた。


それから、君は相変わらずおれの傍にいて。だけど、決定的におれと距離を置いていた。
近付こうとすれば離れるのに、一定の距離以上は近付いてこない。
それが、なんだか気に食わなかった。



あれは、いつだったのだろう。
君の見ているものが何なのか、気付いたのは。いや、君が見ているものをおれと共有してくれたのは。

雨の音がやけに響く日だったという事は覚えている。そして、君はいつも以上に真っ白な顔をしていた。

どうした、と心配を口にすると、君の瞳から綺麗な涙が零れ落ちた。
わけが分からなかった。何故、泣く。気付かない内に何かまずい事をしてしまったのか。

理由は全く分からなかったけど、放っておく事は出来なくて。その華奢な身体を抱き寄せた。


「何、考えてんの」


こんな感情を自分が抱く事になるなんて、人生分かんないもんだと思う。
まさかこのおれが、他人の考えている事を、その存在の全てを、知りたいと願うなんて。

 
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