Short Story

□未知なる世界を染める色
1ページ/5ページ


もうずっと昔から、知り合って何年経とうと、分からない人だ、と思っている。
何を考えてるのか分からない、とよく言われるみたいだけど、それは長い間一緒にいる俺から見てもそうだ。
穏やかな表情を浮かべてるくせに、その思考はどこかぶっ飛んでる。俺なんかには想像もつかない。

だからこそ、俺の予想を超える人だ、とは認識していた。俺の中で、あの人の捉え方は確固として変わらない。


『大野さんと、連絡がつかなくなりました』


俺の耳が絶望めいた音を言葉として受け取る。特別思う事は無かった。強いて言うなら、やっぱりか、と思う程度だった。


あの人を一つの場所に縛り付けておく事自体、無理なんだ。だって、あの人は誰よりも自由が似合う人だから。
突然消えたって、あの人はそういう人だ、という認識しているため、大した動揺は無い。


どこに、行ったのかな。
あの人、自分の落ち着ける場所を見つけたのかな。

それならそれでいいと思う。
あの人が自分で自分の居場所を見つけたと言うなら、俺に口を挟む要素は無い。

ただ、あの人の居場所が、俺であればよかったのに、という焼けるような感情が溢れるだけ。



忙しなく動く色々な人の感情。それをぼんやりと眺めている自分が、まるで世界から取り残されたようだ。


「ニノ!智くんから連絡無いの!?」
「リーダー、お願いだから連絡してよ〜!!」
「ったく、一体どこで何してんだよ!!」


焦るメンバーの声がやけに遠くに聞こえる。

自宅にはいない。思い当たる所を探してみても一向に見当たらない。
自分と繋がるものを全て断ち切って、あの人はふわふわと消えてゆく。

あぁ、あの人は本当にいなくなってしまったんだ、と頭が冷静に判断を下す。
いつか来ると思っていた日は、なんと呆気なく、鈍い衝撃を与えるものなんだろうか。


ずっと傍にいてほしい、なんて身勝手な願いをあの人に言わなくてよかった、と心底思った。自由なあの人を縛り付けるなんて、そんな愚かな真似をしなくてよかったと安堵する。


オフの日にリーダーと連絡が取れないと集まるメンバー。そんな仲の良さに思わず笑みが零れる。
結局、あの人の行方は分からず仕舞いで、そのまま解散になった。他のみんなは仕事が入ってて、オフなのは俺だけで。焦るみんなを落ち着かせて仕事を頑張るように伝えた。
本当は一番焦るべきは俺なんだろうけど、そんな感情が生まれてこないのだから仕方が無い。

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ