Short Story

□傍にいて
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いつも通りの収録。
いつも通りゲストにツッコミを入れる。

いつもと違うのは、身体を駆け巡る激痛。

俺は上手く笑えているんだろうか。
自分でも気付かない内に眉間に皺が寄っていたりしないだろうか。


この腰痛と付き合ってもう長いけど、この強い痛みには全く慣れない。痛みが酷い時は屈む事さえ辛くて、靴紐を結ぶのだってかなりの苦痛で。

どんなに痛みが強くても、仕事に穴を空けるのは絶対嫌だから、めちゃくちゃ痛い痛み止めを打って仕事に臨む事も別に珍しい事では無い。
仕事をやらせて貰えるだけで有難い世界にいるのだから、俺の勝手な事情で穴を空けるのだけは何を差し置いても嫌だ。
プロ根性と言うよりも、他人に迷惑をかける事が率直に嫌いなのだ。


ここ最近、腰の調子が悪いな、とは感じていた。だけど、よりによって腰痛が収録当日に訪れるとは思っていなかった。
正直、最悪だ。痛み止めの注射を打ちに行く暇が無い。この痛みを抱えたまま収録を続けるのは辛い。

と、そこまで考えて思考を断ち切った。これ以上腰の事を考えていると余計痛みが酷くなりそうだ。


さっきまでレギュラー番組の収録をしていて、今は休憩中だ。次も続けて収録が入っている。
相葉さんはメイク直しをしていて、翔ちゃんと潤くんはスタッフさんと話している。おそらく収録についての話をしているんだろう。普段なら持って行きたい流れを確認するために俺もそうする所だけど、今日は全く動く気になれない。というか、これ以上動けば身体が悲鳴を上げるのが分かっていた。そうなれば、周りに迷惑をかけてしまう。それだけは絶対に嫌だった。


ふと、右側から視線を感じた。目だけでその先を確認すると、大野さんがいた。その瞳は俺が最も苦手とするものを含んでいて、思わず顔を顰めそうになった。俺、さっきから顔面に力を入れすぎなんじゃないだろうか。

大野さん、と声をかけると、眉を下げて笑みを浮かべる。その表情はいつもよりも微かに強張っていた。

 
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