Short Story

□静かな愛情
1ページ/3ページ


胡坐をかいて、猫背の状態でゲームをしている俺の隣には、のんびりと何かを描いている人がいる。


今日は珍しく一日オフで、この時間を利用してゲーム三昧しようと考えたのが昨日の事。

この隣にいる人から突拍子も無い電話が来たのは今朝早く。ちなみに、俺が気持ちよく寝ているのを遮って、だ。
電話の内容は『おれもオフだからかずの家に行く』というもの。
俺に伺いを立てるわけではなく、俺の家に来る事を断言された俺はいまいち頭がついていかなくて考えていると、これまた突拍子も無く電話が切れた。


で、今の状況に至る。
大野さんは俺と話すわけでもなく、勝手に絵を描いてくつろいでいるわけで。
じゃあ何で俺の家に来たんだよ、と言ってやりたいが、暇だから来ただけ、と言われて傷付くのは嫌なので言わなかった。

だからって、いつまでもこの状態はどうかと思うんですよ、我ながら。
大野さんが来てから2時間は経つけど、その間にこの人が喋ったのは『おじゃまします』と『絵描きたかったんだよなぁ』と『眠ぃ』だけですからね。

だったら自分の家で絵を描けばいいじゃないんだろうか。まぁ別にいいんだけど。俺だってやりたい事をやってるし。
だけどさ、俺の家にわざわざ来て絵を描いてるこの人が何を考えているのか、少し気になるのは至って普通の事ですよね。

あぁ、俺って本当にバカみたいだよな。
だってさ、こんなに気になってるっていうのに、大野さんが絵に集中している所を邪魔したくないからって聞こうとしないんだもん。
勝手にやってきて、勝手に絵を描いている人の都合なんて気にしなくてもいいのに。
全く、惚れた弱み、ってやつですかね。


ゲームが一区切りした所で、自分の口の中がやけに乾いている事に気が付いた。
そういえば、今日は起きてから何も口にしていない。食に関心が無いから、たまにこういう事が起きる。

腹も減ってるし、なんか適当に作ろうかな。別にそこまで食いたいわけじゃないけど。
食わなかったらまた潤くんに怒られるからなぁ。それは心配してくれてる証拠なんだけどね。


立ち上がろうと思って身体に力を入れると、身体の節々が軽く痛んだ。十中八九、ずっと同じ体勢でゲームをやっていたせいだろう。
昔ほど身体が持たなくなってきたなぁ。昔はガチでずっとゲームやってたからな。
あまり年齢を取らない(とよく言われる)顔とは対照的に、身体は着々と歳を取っていっているらしい。怖いもんだ。いや、自然の摂理か。

そんな事を思いながら立ち上がると、ふと小さな声が耳を掠めた。隣に視線をやると、大野さんが俺を見ていた。


「……どこ、行くの」


やっと話したと思えば、何を思ったのかそんな事を言い出すこの人に、俺は小さく溜め息を零した。思ってたよりも溜め息が大きくなったかもしれない。まぁ、いいか。


「飯、作んだよ」


質問の返しとは少しずれている答えを返してやる。俺の常套手段の一つだ。
大野さんは珍しくあまりぼーっとせずに俺を見ている。あぁ、さっきまで絵を描いていたからか。


「……俺も、手伝う」

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ