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□ふたつだけ*
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僕が欲しいものはいつもひとつだけだった。いや、ふたつと言うべきかもしれない。それは兄さんの心と、兄さんの体だった。


整った外見とは裏腹に恋愛に奥手な兄さんに恋人が出来たのは遅い方だった。それは高校2年生の時で、とても可愛らしい彼女だった。僕は兄さんに彼女が出来る度に会いたいから会わせてよ、とせがんだ。僕に甘い兄さんは嫌がることもせず会わせてくれた。その度に兄さんの彼女かわいいね、僕一目惚れしちゃったかも、と言ってみせた。

かわいい弟が悲痛な表情で兄さんの彼女が好き、と言う度に兄さんは悩んでいた。それでも兄さんのことで相談がある、と兄さんの彼女を呼び出して、突然のキスをお見舞いしてヌナ好きだよ、と囁けば落とすのは容易なことだった。兄さんはその度にかわいい弟のために恋人を譲った。そして僕はその女をすぐに捨てた。「やっぱり好きな人が忘れられない」と言って。

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