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□その唇が憎いT
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いままで人をうらやましいとか妬ましいとか思ったことはなかった。

大手企業の社長で一家を支える父、優しい母、美しい姉。そんな家族に囲まれてなにひとつ不自由なく暮らしてきた。


それに加えて僕自身。
自分で言うのもなんだけど完璧なビジュアル。身長にも恵まれた。
いままでに何度告白されたか数え切れないぐらいだ。


そんな僕がアイドルを目指すのも自然な成り行きだった。


様々なオーディションを経て僕は今の事務所に落ち着いた。
そして運命だなんて陳腐な言葉は使いたくないけどそこで僕は運命の出会いをした。




彼の名前はソ・ウングァン。
僕より5つ年上の同じ練習生。
彼は、なんというかお世辞にも美男子という感じではなかった。
だけど彼の魅力は違うところにあった。


その歌声だ。
一度聞いたら皆が聞き惚れる歌声。バラードもアップチューンもそつなく歌いこなす歌声。
アイドルなんて顔だけがよければいい、と思っていた僕は彼に追いつこうと必死に練習を重ねた。


そしてその人柄。
彼はいじられやすい性格からかよく皆にからかわれていたが決して怒らない。どんなことを言われてもうまく返して人を楽しませる。
その人柄が不思議と人を惹き付けていた。


もちろん、僕もそうやって彼に惹かれていた一人だ。


本当の恋愛をしたことがなかった僕。
だって女なんていくらでも寄ってきたから。
いつか自分が人を愛するようになるなど、考えたこともなかった。

だからいつの間にか芽生えた、ウングァニヒョンに対するこの気持ちが恋だと気づくのに時間がかかった。


これが、僕の初恋だった。

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