□見。
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もう聞き慣れた入店の知らせる音をぼんやり聞きながら、カナメは店の中へ足を進めた。

「いらっしゃいませ……あ、要さん。」

カナメを出迎えたのはにこやかに笑みを浮かべたカネキであった。
席についたカナメの姿を見送ると、カネキは何やら芳村に呼ばれて行ってしまった。
何を話しているのかは聞き取れそうもないとカナメは窓の外を眺めていると、少しの時間の後、頼んでもいないのにいつも頼んでいる豆の珈琲がテーブルの上に置かれた。
顔を上げるとやはり笑顔のカネキがいた。

「有難う、カネキくん。…そうそう、トーカちゃんの怪我は大丈夫?」

「えっ…な、なんでそれを…?」

カナメが問い掛けた途端、あわあわとし始めたカネキにああ、と一人納得した。

「そうか、トーカちゃんは俺が居たのを言わなかったのか。」

すぅ、と目を細めてカネキの後ろ、芳村の方へ顔を向けた。

「……その様子だと、店長にもね。」

それだけ言って、カナメは何でもないような顔をして珈琲を飲み干した。まだ熱かったそれが喉を過ぎると、カナメはその熱さに笑みを溢す。

「店長、そう言えば俺さ、母さん迎えに行ったんだよ。」

笑顔のままカナメは続けた。

「俺はもう復讐心なんかで動かないよ。…俺は何をすればいい、芳村さん。」

芳村の表情がピクリと動いたのに気が付き、カナメはあえて不思議そうに首を傾げた。

「それじゃ…、」

芳村は少し逡巡した後ゆっくりと続けた。
その目は真っ直ぐカナメの目を捉えていた。



「守ってあげてくれ、力の無い子達を。…今の君ならきっと守ってあげられる。」

にっこりと笑って、芳村は店の奥へ消えていった。
ただ一言、「頼んだよ」と言葉を残し。


カナメはその背中を見送って、満足げに頷いた。カネキに視線をやると、やはり柔らかい笑顔を浮かべていた。

「うん、皆よりお兄さんだからね、頑張らないとだ。」

小さく決意して、トーカの姿を探した。自分と身長が変わらないながらもまだその小さな少女は直ぐに見つかった。傷はやはり、塞がってはいなかった。
あの時のクインケに掠ってしまったのだろう、いくら再生力が人間よりもあるからと言って、あれの傷の完治には時間の掛かることをカナメは身を以て知っていた。

邪魔をしてしまった上に怪我しかさせていない、カナメはモヤモヤするのを抑えてトーカに声を掛けた。




 
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