□想。
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20区。
カナメは体を半ば引きずるようにして“家”に着いた。

「ただいま。」

「…要!」

ずるりと壁に預け崩れるカナメの体を抱き支えたのは、四方であった。

所々服は破け血が滲み、右腕の古傷である切断面を覆う包帯は赤く染まりパーカーの袖まで達していた。苦虫を噛み潰したような四方の顔にカナメはくすくすと笑った。

「大丈夫、大丈夫だよ。それより聞いて…蓮示、あのね、俺…やっと…」

そっと四方の頬に伸ばした左手が撫でる。四方は無言で頷いた。そのまま何も言わずにカナメの体を横抱きにしたところで、漸く足元に転がるケースに気が付いた。血液が付着するそれと、先程のカナメの台詞とを合わせ直ぐに理解する。

「……。」

四方は力なく宙に投げ出されたカナメの左腕を見つめ、また顔を歪めた。

「お前はまた、無理をし過ぎだ。」

扉を閉め、部屋の奥のソファへと運ぶ。ゆっくりと横たえたカナメの胸が規則正しく動いているのを確認し、四方は携帯電話を取り出した。画面には、昔からの馴染みの名前。

通話ボタンを押して耳に押し当てる。
数回の機械音の後、聞き慣れた声が返ってきた。


「もう少し、時間が掛かる。」

挨拶も無しに言った四方の台詞に、電話の向こうからは何かが落ちたような音がした。

「大丈夫か?」

『…うん、僕はね。そっか…うん、電話してくれてありがとう。』

いつもの声色と違い何処と無く落ち着かない電話の相手に、四方はチラリとソファで眠りこけるカナメと、血が付いたケースを見る。

「だが、取り戻した。…これでカナメも少しは落ち着くだろう。」

『え…カナメ、“俺”って…?』

「ああ。今まで何度か混合して言っていた様だが、恐らくは。」

『そっか…。』




静かに切れた電話から耳を離して、四方はため息をついた。



 
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