□想。
5ページ/7ページ




「返して。」

カナメがもう一度告げた瞬間、既にその場に彼の姿はなく、迷いなくその赫子は真戸の首を狙って振られていた。
真戸は何食わぬ顔をしてその攻撃を持っていたクインケで受け流すと、余裕に笑みを浮かべる。受け流したクインケ持っていた手とは反対側で、新たなクインケを展開した。

「まるで使い方がなっていない。それではまるで、子猫のようだよ…『スノウ』!」

「…っる、さい!」

鈍い音が真戸とカナメの間で弾ける。

「『アルビノ』には戦い方を教わらなかったのかい?彼女には到底及ばない、幻滅だよ。」

真戸が新しく取り出したクインケは、鞭のようにしなりながら先端の刃の部分を光らせる。カナメの赫子と似たそれは、間違いなく彼の母親…『アルビノ』のものだ。カナメは怒りに身を震わせたがそれも束の間、赫眼を細めるだけに治めた。

「…母さんは、優しい人だ。僕に戦いを強いる人じゃなかったからね。」

隙を見せぬようまるで獣のように四足をついて赫子を揺らしながら、カナメはニヤリ、と唇を歪めた。
真戸の表情が恨めしげに歪む。自分の挑発に乗らぬカナメの冷静さに警戒を強めた。

「何…?」

「だぁかぁらぁ。母さんは僕よりも優しいんだってば。意味解らない?」

ぎちぎちとカナメの足元で地面に亀裂の入る音がする。地に着いている左手の指は最早地面に埋まる勢いだった。

「俺は優しくないって事だよ。」

言った直後、カナメの周りの地面がベコンッと割れる音をたてて凹んだ。カナメは一気に真戸と距離を詰める。今までの速さとは比べ物にならないそれに、真戸は人知れず喉を鳴らした。

欲しい。

脳裏に浮かんだのはその一言だった。

しかし真戸がそのままやられる筈もなく。
距離の縮まったカナメの背後にクインケを伸ばし、そのまま引き付けるように腕を引くと、鞭の先端がカナメの背中目掛けて戻ってくる。

「ばぁか。俺の赫子がどんなんか忘れたの?オジサン。」

呆気なく止められたクインケには、カナメの赫子が巻き付いていた。

「殺っちゃうよ?」

「く…っ!」

真戸の手首を襲った激痛、見ればピンポイントでそこにカナメの蹴りが命中していた。痛みに顔を歪め、クインケから真戸の手が緩んだその隙にカナメは足元に転がっていたケースを左手で引ったくると、体を捻り初撃とは逆の足でクインケを弾き飛ばす。

「しまっ…!?」

「げっちゅー。オジサン、まるで使い方が成ってないね。…母さんはアンタに、戦い方を教えて無かったみたいだ。」

弾いたクインケをケースに閉じ込めると、それを抱えて建物の壁に赫子を器用に使って張り付く。
にまにまと馬鹿にしたように、呆然とする亜門も憎らしげに見上げる真戸を見下ろして、そう言い放った。真戸は、カナメの台詞に怒りに顔を赤くして別のクインケに手を伸ばしたが、既に建物に張り付いていた筈のカナメは消えていた。



 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ