□想。
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話が始まってから、カナメはまるで上の空で、自分の膝に顔を押し付けたまま無言だった。


「……可哀想なのは、仇が討てないことじゃない。」


唐突に、トーカの言葉に芳村が静かに言い放った。


「本当に哀れなのは…、復讐に囚われて自分の人生を生きられないことだ。」

「!」

その台詞に目を見開いたのは、唇を噛んだのはトーカだけではなかった。
カナメは体が麻痺して動かなかった。びりびりと指の先に痛みが走った。立てない。言い返せない。カナメは、今度は震える唇を隠すように顔を上げる事が出来なかった。

「それは…、それは、私に言っているんですか!?」

カナメとは対照的に、苦しそうに声を絞り出してそう言ったトーカは、部屋から出ていってしまった。

音が遠ざかっていく。

「(あれ…僕、今座ってるんだっけ。寝てるんだっけ…?)」


「…カナメ、?」


隣に立っていた四方の、息を飲む音がした。カネキの恐怖で跳ね上がった心拍音、古間の焦った声、入見の小さな悲鳴、芳村の視線。ぐちゃぐちゃに混ぜてカナメの尾てい骨から伸びる赫子が変形した。しかしそれが振られることはなく、直ぐに消えてしまう。
その部屋にいた全員の安堵のため息だけが、やたら大きく聞こえる程だった。

次に聞こえたのは、カナメの蚊の鳴くような声だった。


「僕が甘かった。

全員護るなんて無理だったんだよね。…自惚れてたんだ。自分なら出来るって、そう思ってしまったんだ。」


にへら、そんな言い方がピッタリのカナメの笑顔が、カネキは何故か怖いと思った。
ゆらりと立ち上がったカナメはスタスタと軽い足取りで部屋の扉へと向かう。途中で芳村に肩を掴まれた。カナメは逆らうことなく振り返った。


「店長、ごめんなさい。それでも俺がしたいことなんだ。せめて母さんを取り返したい。…その後は、何だって言うこと聞くよ。」


芳村は、何も言わずにカナメの肩から手を離した。



四方はその背中を見て、切実にウタがこの場に居たなら…、と考えてしまった。



 
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