喰
□想。
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夜。
カナメは自分の髪がやたら目立つこの時間帯が、大好きだった。見つけて貰える気がするからだ。
喰種としては致命的な色だが、何せ今まで自分の髪色を見られた人物は残らず消していた為、不便に感じた事はない。
変な話だが、何も白髪はカナメただ一人ではないだろう。
風が止む。
今まで髪を遊んでいたそれを追うように空を眺めた。
「…居た、やっぱりトーカちゃんは我慢出来なかったんだね。」
大きく吸い込んだ空気の中に、知った匂いと血の匂いが混ざる。
鉄塔の先、一番空に近いところから一歩踏み出した。
目覚めたばかりの体にも、熱くなりすぎた体にも、肌を撫でる強い風は心地好かった。
鉄塔から少し離れた場所に、トーカは居た。側には先日見た捜査官。だが、白衣の方ではない。
「んっと…亜門さん、だったっけ。」
鉄塔から落ちきる前に側のビルへと移る。どうやら亜門はクインケを持っていない様だった。
ヒュッ、
そんな音を耳が掠めた。
「っ…!?」
「なっ…!」
何かが叩き付けられるような音。
トーカは何かに押されて地面に転がるように着地した。
慌てて顔を上げると、先程自分が居た場所には虫のような形をした何か……クインケが、一人の少年によって地面に食い込むように横たわっていた。ゾッと背筋が寒くなる。あのままあの捜査官に突っ込んでいたら、もしかしたら、今頃腕が吹っ飛んでいたかもしれない、と。
「トーカちゃん、大丈夫?」
聞き覚えのある声にトーカは目を見開いた。
黒いパーカーのフードには、猫の耳のような出っぱりがあり、長い尻尾のような赫子。マスクとフードの隙間から覗く白髪。
「…なん、で…?」
カナメはトーカに向かって駆け出した。
一気に詰まった距離と、放たれた殺気にトーカは声を詰まらせた。だがそれも一瞬のこと。
「蹴るよ。…怪我、早く治るといいね。」
「!」
何故分かったのか、そうトーカが問い掛ける前に腹の辺りを蹴りあげられた。腕でガードした上にカナメが手加減をしたのが分かっていても、トーカは苦痛に呻いた。トーカ自身、そう体型の変わらぬカナメに軽々と蹴り上げられたのには驚いたが。
「おや、仲間割れかね?」
クツクツと可笑しそうに笑いながら、真戸はクインケを構え直す。
カナメはしっかりとトーカが離れた事を確認してから真戸に向き直った。
マスクに隠れていない唇が笑みの形に歪められた。
「「!」」
言い様のない悪寒が亜門と真戸を襲った。
「(先日とは違う喰種なのか…?)」
亜門が訝しげに眉を寄せた瞬間。彼の耳に風を切る音が届くが、同時に鈍痛も襲った。
「ぐっ…!?」
地面に叩き付けられる事は避けられたが、弾かれたように顔を上げた。
「亜門くん、君はクインケを持っていない。下がっていなさい。」
上げたと同時に亜門は真戸に感謝した。
「ちぇっ、鈍い方から消そうと思ったけど…まぁいいや。」
先程まで亜門の居た場所から、カナメの赫子がずるりと現れたからだ。真戸が居なければ、咄嗟に弾いてなければと思うと、やはり真戸には感謝の一言だ。
つまらなそうにカナメは自分の赫子を抱き締めながら小さく告げた。先日とは違い、カナメ本人とても冷静でいた。
「良いね、良い!『ラビット』の次は君か、『スノウ』!」
「うん。だったら何を使えば良いか分かるよね?」
真戸とスノウ、二人から離れた亜門は固唾を飲んだ。
カナメの少し高い声が暗闇に響いた。
「母さんを、返して。」