□動。
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4区から20区迄は、カナメの体感的にはちょっと長めのお散歩コースだ。実際は交通機関を使った方が良いのかもしれないが、如何せん人間はあまり好ましくないので却下であった。だったら建物を渡っていった方が速い、と。
まだ20区には入っていないだろうが、この速さならばそろそろ見えてくるだろうその場所に口元が緩んだ。

その時だった。


「ぎゃああああ、あ あぁ…」


「!」

つんざくような悲鳴に思わず駆けた足を止めた。引っ張られるように悲鳴の方へ顔をやると、建物の下の方、もう亡くなっているだろうぴくぴくと体を痙攣させ血溜まりに横たわるそれが目についた。
ぐじゅり、と音をたてて本人の赫子が側に落ちた。

「一体誰が…」

建物の暗がりから聞こえた音を聞き逃す筈もなく、そちらに視線を移したカナメの目が、僅かに見開かれた。

ぱきんと音をたてて何かが収まったケースを手にする男。見たこともない男だが、すぐに見当はついた。

「ッ…白鳩!」

喰種の死体、見たことのあるケース、仲間の匂い、カナメは狂喜した。まさか会えるとは。

会えるとは。

会えるとは!

「あはっ、あははははっ!」

ずぶぶぶと赫子が現れる。カナメの目は紅く染まり笑顔を貼り付けたそのまま、笑い声をあげると、迷い無くビルの屋上から飛んだ。

「“アイツ”じゃないけど許して上げる。僕の為に消えてくれる?」

赫子を出し己目掛け落ちてくるカナメに気付いたのであろうその男は、白鳩の捜査官が持つ武器、“クインケ”をケースから取り出し構えた。

固いものがぶつかる音と共に二つの塊はお互いに距離をとった。

「喰種…ッ!」

忌々しげに吐き捨てた男にカナメは意外そうに目を丸くさせて、首を傾げた。どうやら首を跳ねるつもりで繰り出した赫子を上手く躱されたことに驚いたのだろう。

「あっれ。おかしいな…もう少し早く飛べば良かったかな。」

素っ頓狂なカナメの台詞に男の顔がカッと赤くなった。侮辱されたことによる怒りであろう。

「この、化物が!!」

何の赫包から作ったのかは解らないが、カナメは襲い掛かるそれをひょいと軽く躱すと、腕力のみでクインケを地面に押さえつけると、その勢いをも借りて男との距離を詰めた。
そこで漸く男は気付く。ひらひらと中身のない右腕のそれに。

「白髪…と、隻腕…お前が…『スノウ』か…。」

驚愕と共に視線が袖に移った瞬間、男は視界がぐるりと回った。遠退く意識の中で、「いただきます。」と聞こえた気がした。


 
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