喰
□動。
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「白鳩、白鳩…」
店の奥へ続く扉をくぐり自室に入った。背中を扉に預けてずるずると崩れるように膝を折った。自然と三角座りのようになったカナメはぐっと唇を噛んだ。
「(父さんを殺った奴も…母さんを殺った奴も…白鳩に居る。)」
最早それは確信だ。
カナメは目の前の膝小僧に血と涙が混ざったような滴が落ちた。
20区に住んでいたあの頃の平和を、白鳩は嘲笑うかのように奪っていったのだ。今はもう、自分の側に二人の優しい笑顔は無いのだと思うと、悔しかった。
「絶対、許さない…。」
体を小さく抱いて忌々しげに脳裏に浮かぶ自分や母のそれとは違う白髪を思い出した。
「(そう言えば、蓮示が20区に捜査官が何とかって言ってたっけ。)…八つ当たりには、丁度良いかもしれない。」
血の滲んだ唇をだらしなく伸びた上着の裾で拭い、徐に立ち上がった。ふと見た20区の方向に懐かしさが込み上げた。理由は解らなかったが、恐らく「あんていく」の新人の雰囲気が両親に似ていたのかもしれない。カナメはまだ店に居るだろうウタへの置き手紙に、
『暫く「あんていく」にお世話になる。心配しないで。』
そう綴って、窓から身を乗り出し、暗くなり始めた外へと駆けていった。