□動。
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“白鳩がうろついている。”

最近カナメの耳にはその類いの話がよく入ってきていた。ウタの店である『HySy ArtMask Studio』での手伝いをしていると、客との雑談に花を咲かせるのは最早カナメの仕事内容に入っているようなものだった。
今も、人間の客が居ないのを良いことに花を咲かす。といっても、喰種にとって白鳩との接触はイコール死に繋がるためそのように可愛らしい話題ではないのだが。

「要ちゃんも気を付けろよー?只でさえ目立つ見た目してんだから。」

「髪の色は『アルビノ』さんを連想させるし、有馬にやられた片腕はそのままなんだからよ。」

『アルビノ』。それはカナメの母の事である。20区出身の彼女を4区に住む喰種が知っていることに驚いたのは大分昔になってしまったが、それほどまでに母が有名なことにカナメは少なからず嬉しかった。白髪に、紅い眼。赫眼とは雰囲気の違うそれが、幼いながらに大好きだった。
二人の客に笑顔を向けて、カナメは並べているマスクの向きを微調整しながら言った。

「大丈夫ですよぅ、僕は強いですから。…まぁ、確かに白鳩は厄介ですけど、皆が皆有馬さんみたいに優秀ではないでしょうし。」

そう告げるとマスクから手を離し自分の右肩を撫でる。二の腕の真ん中辺りから先が無いそれに視線を落として眉尻を下げた。

「ていうかこれは、治そうと思えば治りますからね?ただ自分への戒めとちょっとしたハンデをですね…」

そこまで言って、カナメは口を噤んだ。それに気付いた二人の客も倣って黙る。理由は見るより明らかで、楽しそうにカネキのマスク制作をしているその向こう、つまり店の入り口の方から人間の気配がしたからだ。白鳩の話を進んでする人間はまず居ないし、何よりそれから気を付けるように言われるのは自分達が喰種ですと言っているようなものだからだ。
結局、入店した人間の客と入れ違いで二人の喰種は店を出ていった事で、自然と白鳩の話は終わった。

「お久しぶりですー、白雪さぁん。」

猫なで声の客にぴきりとこめかみの辺りがつっぱる気配に首を振り、カナメは笑みを貼り付けて店内へと案内した。

「ウタさーん、若草さんのって完成してましたよねぇー?」

「うん、そこ。わざわざ取りに来てくれて有難うございます、希望に添えてたら良いんだけど。」

呼び掛け、振り返った僅かに口角を上げ微笑んだウタに女性客は頬を染め上げた。隣でカナメがひくりと頬をつっぱらせた。この手の客は苦手だった。しかし、腹が立つとは言え手を出す訳にもいかないと、白鳩の事もあり苛々に震える手を抑えながら目当てのものを手に取り、客に手渡した。

「お待たせしました、お品物をどーぞ。」

受け取った客が今度はカナメの笑顔に見惚れるのを、本人は気付いていない。心の中でウタはため息をついた。

「良かったらまた、今度はお友達も一緒に来てくださいよ。」

カナメは女性を店の出入口で見送り手を振りながらそう笑って告げた。
ウタはいつの間にかマスク制作に熱中していた。

「あー…辛。マジで友達連れてきたら俺逃げるから。ウタさんガンバ!」

扉を閉め開口一番にそうぼやいたカナメに、またため息を吐きながらウタは手を止めた。

「うん。良いけど…どうせカナメは乱入する羽目になるんじゃないかな。」

「はぁ?ないない、それはないよ。」

「本当?…この前もそう言って、乱入したじゃない。」

「…。」

何よりも楽しい事が好きなカナメは、ウタの巧みな誘導によって、会話に乱入せざるを得ない状況に毎回陥っていた。図星を突かれ不貞腐れたように店の奥へ消えたカナメに、ウタはまた微笑んだ。



 
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