ハイキュー中編2
□嘘デート
1ページ/1ページ
久々のオフだから今度の日曜は空けておけ。
若干脅迫気味のそれに、私は従う他なかった。だけど、少なからず楽しみにしている自分もいた。
例えそれが
嘘のデート。
だとしても。
「ほー? へー?」
にやにやと、私を上からしたまで見る黒尾くん。なんだよ、私だって、おしゃれ位するよ。
「変ですかね?」
「いやー、女にしか見えないわ」
「いや、女装じゃないし! 私女の子だし!」
ムキになって言い返したら、わかってるって返された。
「かわいいぜ?」
にたり、笑う彼に言われ、何だか恥ずかしくなった。別にこんなにお洒落しなくともよかったんじゃないかって。だって私たちは
「じゃ、行くか」
そう言って彼は私の手をとる。驚きその手を振り払ったら、あきれたように笑われた。
「恋人なんだから、手くらい繋ぐだろ?」
ああ。そうだね、と平静を装って、彼に手を伸ばすと、しっかり握られたそれ。何だかはずかしくて、胸がドキドキしたのは気のせいだと言い聞かせ、私は彼に連れられて歩く。
行き先も聞かぬままついたのは、遊園地で。
「ベタだねー」
って言ったら
「とか言って、こういうの、好きだろ?」
って返された。あながち間違いじゃなかったから、何だか悔しくて、憎まれ口を叩いた。
「まあ、高校生とのデートじゃ、こんなもんだよね」
「ほー? 遊園地バカにすんなよ?"大人な"ユリさん?」
彼はなおも楽しげに笑っていた。そのわけを、あとから知ってもすでに遅く。
「あ、のさ、これ、なんメートル、あ、いや、落ちる、いやあぁぁあぁあ!」
絶叫系で有名なここの名物コースターにて。私はさんざん叫び倒し、酔っぱらい、彼に大笑いされることとなった。くそ、こんなの、ずるじゃないか。
「くっははっ、ユリさん、大人のよゆーはどうしました?」
腹を抱えて笑う彼に肘鉄を一発食らわして、とりあえずベンチを探し、私はよろけながらそこに座る。ダメだ、叫びすぎて喉いたい。何かのみたい。てか、足、立たないよ。
「ふっ、ユリもあんな声だすんだな?」
「え?」
「若干エロかったぜ? やめてっ、とか、な?」
言われて私の顔に熱が集まる。言い返そうとしたけれど、あいにくそんな気力もなくて。
「ちょい待ってろよ?」
彼は私を見かねてどこかへ消えていく。次に帰ってきたときは、両手に飲み物を持っていた。
「ほら、飲めよ? 喉ガラガラだろ?」
渡されたそれから延びるストローをくわえ、飲料を喉に流す。叫びつかれた喉が癒えていくのがわかった。
そんな私を、彼は楽しそうに見ていたことに、私は気づかない。
何だかんだ、夕刻まで遊園地を堪能する私。そしてそれを見る彼は。
どんな気持ちでこの時を過ごしていたのかと。今となっては確かめる術はないのだけれど
「楽しかったね」
「あー、誰かさんは最初なめてましたけどね?」
「もう、なんで黒尾くんはそんなに意地悪いのかなぁ」
ひとつ、ため息をはく私の頭を、彼は優しく撫でた。
このときはまだ、私は彼との関係も、彼の気持ちも、彼の笑顔も。なにもかも、わかっていなかったのだけれど。
ただ、私の心に変化が芽生え始めたことに。私は勿論、彼も気づかないままに。
私たちはもう暫く嘘の恋人であり続けることとなる。
140917