ハイキュー中編2

□第零章
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黒尾くんと会ったのは、まだ肌寒さが残る四月のことだった。


大学を卒業したものの、この不景気。第一志望も第二も、三も。ことごとく不採用。まあ、私の対人スキルがないせいだろうと諦め半分。ならば対人スキルをあげようと、繋ぎとしてコンビニのバイトを選んだ。

バイトをしつつ、第二新卒の募集を待つ。そう、意気込んでいた。のに。



「い、いらっしゃい、ませ…」



客が来る度にびくつく私を見かね、オーナーに怒鳴られる日々。



「挨拶は大きい声で!それから語尾は尻上がりに!今のじゃ全っ然ダメ。ほら、もう一回!」



「い、いらっしゃいませー!」



振り絞った声は上ずっていたし、尻上がりなんて普通できなくないか?等と思いつつ、泣きたいのを我慢してオーナーにしごかれた。

そんなある日、真っ赤なジャージの彼らと出会った。みんな身長が高くて怖くて、びくつきながら、レジを打っていたそのときだった。



「あれ?君新入りかな?」


髪を逆立てた、ひときわ背の高いその子が、私に話しかける。恐る恐る頷けば、彼は私の頭を撫でてきた。なんなんだ、と目を見開き、彼を凝視した。


「ここのバイトね、オーナーがきついので有名なの知ってる?みんな長続きしないんだよねぇ。君は頑張りなよ?」



にこり、悪意とも善意ともとれない笑みを浮かべ、彼は会計を済ませ、私に手を振り、コンビニを出ていった。なんなんだと。バカにしてるのかと腹もたったが、それよりも。頑張れ。そういわれたことが、素直に嬉しかった。




その日は珍しくオーナーになにも言われずにすんだ。ほっとし、着替えてコンビニを出た。瞬間、



「お、今上がりか?新入りくん?」



さっきの。大きい、私に頑張れといってくれた彼。たぶん高校生の彼がそこにいて。



「え、あの、あ。はい」



「君、名前なんて言うの?」



「え?如月…」



つい答えてしまったが、一体なんなんだろうと一歩退いた。だけど彼は何食わぬ顔で続けた。



「下の名前は?如月何て言うの?」


「…あなたは、なんなんです?私になんの用?」



少し警戒して低い声で言えば、彼はけたけた笑い、私の頭を撫でた。



「わりぃ!俺黒尾。黒尾鉄朗!ほら、この近くの音駒の三年」


さもおかしそうに笑う彼をジト目で見れば、彼は肩をすくめておどけて見せた。


「さ、俺は自己紹介したんだから、そっちも名前、教えてよ?」



「し、知らないっ!」



なんだか怖くなって、私はその場から逃げ出した。あまり人に近づかれるのには慣れていないからかなんなのか。訳がわからなくて、私は彼を拒絶した。のに。

















結局は。だ。私がこのコンビニでバイトしている限り、彼。黒尾くんとは嫌でも顔を会わせるわけで。最終的にというか。彼の気まぐれで、私たちは一緒に帰るまでの仲になったわけで。


「へー、それでコンビニのバイトをねー」



まあ、今はよき愚痴仲間だったりする。




そんな矢先の、彼からの提案。


見せかけの恋は、静かに幕を開けたのである。





140917
 

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