ハイキュー中編
□真夜中の会瀬
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恋愛なんて、ただの遊び。パズルゲームみたいなもの。どんなに組み立てるのが難しそうに見えても。pieceをじっくりみて、感じて、考えれば。自ずと噛み合い形になる。
「どう言うことだよ、ユリ」
男は私を鋭く睨んでいる。ああ、だからだめなんだって。
「言葉通りよ。飽きちゃったから。さよならしましょ?」
ふわりと優しく唇で弧を描き、首をかしげれば。男は悔しさで顔を歪めた。ああ、
「俺が、どれだけお前に貢いだと、っ、」
嗚呼。この瞬間が。好き。一生懸命組み立てたパズルを。がらがらと崩す。この瞬間が。
「この、雌豚、っ!」
男は私に手を振りかざす。ああ、そうだよね。当然の報いだ。
その痛みを享受すべく静かに目を瞑る。
「っ、なんだおま、」
いつまでたっても私に来ないその痛みに。そっと目を開いたら。知らない男の子が、男の手をつかみ、制止していた。
「おいおい、女に手ぇあげるなんざ、男の風上にもおけねえなあ?」
ツンツンと髪を逆立てた男の子。たぶん高校生のその子が、男を諌める。男は、チッと舌打ちすると、その場を走り去った。
「大丈夫か、お姉さん?」
振り返った彼は私を見て、優しく笑った。ああ、もう。余計なことを。
「なんてこと、してくれるの、」
強い口調でそう言ったら。彼はキョトンと固まった。
「だってあんた、殴られるとこだったんだぜ? 普通、怖がるだろ? 安心するだろ?」
純粋そのものの言葉が私に刺さる。
「ああ、不愉快。あんた、さぞ幸せにそだったのね」
ふい、と顔をそらせば、彼は面白くなさそうに顔を歪めた。
「普通感謝しね?」
「普通は、ね。私はしないけど」
彼を横目でみたら、やはり不機嫌な顔。ああ、イライラする。
「感謝、されたいの?」
彼に向き直り、ふわりと笑ったら、ますます彼は顔を歪めた。
「なんなんだよ、お前」
「如月ユリ。ねえ、君さ、」
ふわり、背伸びをして、彼の唇に私の唇をあわせる。
彼は訳がわからぬまま、私を凝視している。ほんのり頬を赤くして。かわいいなあ。
「な、おま、何を、」
「あら、キスだけじゃ、不満? 抱かせてあげましょうか?」
クスクスと意地悪く笑ったら、彼は私の肩を掴み、怒鳴り付けた。
「ふざけんな! お前、自分が何してんのか、分かってんのか?」
ああ、うぶだなあ。私はまた、笑いを溢し、彼の唇に人差し指を当てる。
「まあまあ。高校生に、手は出さないよ。お子ちゃま?」
「っ、お前、」
彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。ほんと、若いって、いいなあ。私はふわり、笑うと彼に背を向けた。
「バイバイ、少年?」
後ろ手に、手をふったら。腕をつかまれ振り向かされた。
「なに? ヤりたいの?」
余裕でまた笑ってやれば。彼は低く、呻くように言った。
「黒尾、鉄朗」
「ん?」
「俺の名前は。少年、じゃない。黒尾、……鉄朗。だ」
挑発するような彼の目に、私から、笑みが漏れる。嘲笑じゃなくて、歓喜からの。ああ、次は。君に決めた。
「鉄朗……」
彼の名を、反復した。頭の中で。何度も。何度も。
140713