企画処

□眠りクマ
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ぼーっとカフェ内を歩いていたのが悪かった。
トレーに乗せた珈琲を前から歩いている人のシャツに掛けてしまった。
染みになってしまうと思いながら、その人にひたすら謝ると「また、お前か」と言われてしまう。
顔を上げれば、forrteの清家涼さんがいる。
いつも清家さん限定で、ハプニングを起こしてしまう。
今回もそうだ。寝不足が祟って授業に集中できない私は空きの時間を利用してカフェに赴いたのはよかった。
この時間は、殆どの学部が必須授業のためか人が少ない。
そんな時間に清家さんがここにいても可笑しくない時間なのに、私はぼーっとしすぎていた。
謝っているのに呂律が回らなし、睨まれているがその目つきでさえ今の私には効果がない。
なぜなら、眠いからだ。


「俺に何か恨みでもあるのか?」

「そんなことはにゃいです。本当に私の不注意です」

「そうか、…あまり迷惑を掛けないでくれ」


最初のころから比べれば、清家さんの言い方にも棘がなくなってきている。といっても、きっと諦めているのだろう。
今年の4月からこんな私が周りで何かしら清家さんを巻き込んで起こしていればイラつくを通り越して呆れるに変わるのだろう。
そのまま、私の前から姿を消す清家さんをぼーっと眺めていたら、チャイムが鳴ってしまったから、珈琲とトレーを返却口に返して教室に急いだ。
授業中に机の上に置いている携帯が振動しているのに気づき、教室から抜け出し電話に出れば仕事の話だった。
この前、楽曲提供した人気双子声優の曲の変更点についてだ。
すぐに打ち合わせの場所へ向かう旨を伝えて、大学を後にする。



***



「君が今回俺たちに楽曲提供してくれた子?かーいね。俺、椿。で、こっちは梓。よろしくね」


早口言葉を聞いているようで、椿さんの言葉が頭の入ってこない。
さっき、清家さんに珈琲を掛けてしまったこともあって反省中+カフェイン不足でヤバいかも知れない。
そんな私の体調に気づいてくれた梓さんは早めに打ち合わせを切り上げてくれた。
一緒に外まででると、たまたま視界の端に入った清家さんが凄い顔をして此方を見ていた。
そして、それに気づいていない椿さんは私を抱きしめている。そんな私を見て不愉快というような表情をしながらも近づいてくる清家さんに気にすることないのに、どうしても気になってしまう。


「すみません。此奴は俺のなんで手は出さないでください」

「ん?…げっ、風斗のところの」

「ああ、清家くんだっけ?」


冷静に何を言っているのか考えるけれど、私にはわからない言葉ばかりが飛び交っている。
それに、眠いを通り越して気持ち悪い。
こんななところで、清家さんに腕の中に閉じ込められたのはいいけれど、吐きそうでヤバい。
それでも、満足そうな顔をして抱きしめている清家さんに何も言わない。
その温もりが何故か心地よいから。



20151230

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