企画処

□真夜中のお茶会
1ページ/1ページ

「ふんふんふん〜♪」

「名前、今日は機嫌がいいんだね」

「ああ、枢。別にそうでもないわよ」

「もしかして、支葵と何かあった?」

「今日の枢は質問ばっかりね」


ティータイム中に野暮ったい質問ばかりしてくる枢を見ていると、まるで千里みたいだと思ってしまう。
口下手な家系なだけに、意外にもふたりは似ている。
向かいに座ってくる枢にお茶を振る舞えば満足そうな顔をする。
「…お姉さん」と呼ぶ声に振り返れば、千里がいつの間にか後ろにいた。
座るように促すが、「ここで、いい」と言われてしまったから無理強いすることもないと思い、そのままにした。


「…何で寮長がここにいるの?俺、姉さんと約束してたから来たのに」

「たまたまだよ。僕も名前とお茶会したいと思っていたし」

「…そう。でも、姉さんはきっと俺とふたりだけでお茶会したいと思う」

「まあ、そうね。枢、今回は諦めてちょうだい。千里がこんなにも私を必要としてくれているんだから、枢の負け。ふふふ」


一杯だけ振舞った紅茶を飲んでから枢は席を立ち上がる。
そして、先程まで枢が座っていた席に千里を座らせてれば、少しだけ口角があがったので嬉しいのだとわかった。
お菓子を食べる千里の姿をみていると嬉しくなってしまう。


「今回のお菓子はね。私が作ったのだけどどうかしら」

「…美味しいよ。俺の好みだし」

「よかったわ。拓磨に味見してもらったから千里の好みに合わせられたのよ」

「一条さんが」

「そうよ。それに、莉麻が千里の好きなお菓子を教えてくれたからね」


少しだけ不服そうな顔をしている千里をみていると、純粋に可愛いと思う。
同じ父の血を分けた異母姉弟だとしても。
父からの愛情など皆無だろう。あの人が子どもに愛情を注ぐなど考えられない。
叔母に執着していた父を母は気にすることもなかった。又、父も母を気にかけることなどなかった。
両者とも関心がなかったのかもしれない。私を産んだのも今後のため。
何かを得るために動きやすいようにするため。
私注がれた愛情は偽りのものだろう。
だから、私には愛情というものがわからないと思っていた。千里に出会うまでは。
出会ってすぐに愛情が沸いた。それに、偽りはない。


「それにしても、錐生くん盗み聞きとは関心しないよ」

「いつ気づいた」

「枢がいた時から」


千里はお菓子に夢中だったけれど、錐生くんがいる方向に視線を向ける。
そっと出てくる錐生くんは血薔薇の銃を私だけに向けてくる。


「ねえ、何のつもりかしら。それしまってくれない」

「…ふざけるな」

「本当に人の話を聞かない子ね」


紅茶をひとくち含んでいると「姉さんのこと狙うとか、守護係として失格だよ」なんて千里が言ってくれるから、それだけで嬉しい。
振り返ることもせずに、「ねえ、錐生くん血が欲しくなったらいつでも私のところへ来なさい。緋桜の血が必要なんでしょ」と言えば、舌打ちをしながら消える錐生くん。
そのまま私は千里とのお茶会を続けた。
途中邪魔が入ってしまったが、千里とお茶会ができただけで今日は満足だ。



20150922

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ