企画処
□真夜中のお茶会
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「ふんふんふん〜♪」
「名前、今日は機嫌がいいんだね」
「ああ、枢。別にそうでもないわよ」
「もしかして、支葵と何かあった?」
「今日の枢は質問ばっかりね」
ティータイム中に野暮ったい質問ばかりしてくる枢を見ていると、まるで千里みたいだと思ってしまう。
口下手な家系なだけに、意外にもふたりは似ている。
向かいに座ってくる枢にお茶を振る舞えば満足そうな顔をする。
「…お姉さん」と呼ぶ声に振り返れば、千里がいつの間にか後ろにいた。
座るように促すが、「ここで、いい」と言われてしまったから無理強いすることもないと思い、そのままにした。
「…何で寮長がここにいるの?俺、姉さんと約束してたから来たのに」
「たまたまだよ。僕も名前とお茶会したいと思っていたし」
「…そう。でも、姉さんはきっと俺とふたりだけでお茶会したいと思う」
「まあ、そうね。枢、今回は諦めてちょうだい。千里がこんなにも私を必要としてくれているんだから、枢の負け。ふふふ」
一杯だけ振舞った紅茶を飲んでから枢は席を立ち上がる。
そして、先程まで枢が座っていた席に千里を座らせてれば、少しだけ口角があがったので嬉しいのだとわかった。
お菓子を食べる千里の姿をみていると嬉しくなってしまう。
「今回のお菓子はね。私が作ったのだけどどうかしら」
「…美味しいよ。俺の好みだし」
「よかったわ。拓磨に味見してもらったから千里の好みに合わせられたのよ」
「一条さんが」
「そうよ。それに、莉麻が千里の好きなお菓子を教えてくれたからね」
少しだけ不服そうな顔をしている千里をみていると、純粋に可愛いと思う。
同じ父の血を分けた異母姉弟だとしても。
父からの愛情など皆無だろう。あの人が子どもに愛情を注ぐなど考えられない。
叔母に執着していた父を母は気にすることもなかった。又、父も母を気にかけることなどなかった。
両者とも関心がなかったのかもしれない。私を産んだのも今後のため。
何かを得るために動きやすいようにするため。
私注がれた愛情は偽りのものだろう。
だから、私には愛情というものがわからないと思っていた。千里に出会うまでは。
出会ってすぐに愛情が沸いた。それに、偽りはない。
「それにしても、錐生くん盗み聞きとは関心しないよ」
「いつ気づいた」
「枢がいた時から」
千里はお菓子に夢中だったけれど、錐生くんがいる方向に視線を向ける。
そっと出てくる錐生くんは血薔薇の銃を私だけに向けてくる。
「ねえ、何のつもりかしら。それしまってくれない」
「…ふざけるな」
「本当に人の話を聞かない子ね」
紅茶をひとくち含んでいると「姉さんのこと狙うとか、守護係として失格だよ」なんて千里が言ってくれるから、それだけで嬉しい。
振り返ることもせずに、「ねえ、錐生くん血が欲しくなったらいつでも私のところへ来なさい。緋桜の血が必要なんでしょ」と言えば、舌打ちをしながら消える錐生くん。
そのまま私は千里とのお茶会を続けた。
途中邪魔が入ってしまったが、千里とお茶会ができただけで今日は満足だ。
20150922