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□魔法使いの彼
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「はいはい、凛くん、久しぶり。私が何でこんな時間に電話してきたかわかるかな?」
思い立ったら吉日。と、いう言葉通りに凛に電話した。
あまり深い意味があるわけではないけれど、今の私の苛立ちを抑えてくれるのは真琴でもハルでも渚でも怜でもない。そして、凛でもだ。
東京から突然帰ってきた宗介だ!!


「何だよ、いきなり」

「いいから、どうせ隣にいるであろう宗介と今すぐ交換しろ」

「…わかったよ」


すぐに凛が電話を変わってくれたのは、私が何でイラついているのかわかったからだろう。
受話器越しに聞こえる、凛と宗介のやり取り。きっと、私となんて話したくないんだ。
そう、思ってしまうと胸にチクッとした痛みが奔る。


「…ああ、聞こえてるか」

「ん、宗介?」


久しぶりに聞く宗介の声にドキッとしてしまうけれど、泣きそうな声で電話に出てしまった私は、なんて起伏が激しいんだろう。
こんな女なんて、宗介だってめんどくさいよね。


「その悪かったな、連絡入れなくて」

「…別に気にしてないよ」

「気にしてんだろ。しかも、いまにも泣きそうな声で」

「全部、全部、宗介のせいなんだからね」


宗介のせいだ。私が、こんなにも泣きたかったのを我慢していたのに。
いまのひとことで、私の涙腺が決壊した。


「…馬鹿、なに泣いてんだよ」

「…そ、宗介が…悪いんだから」

「そうだな。俺が悪かった。お前が泣いてるのに何もできない。そんな俺のことをおまえは、葵は待っててくれるんだよな」

「そうだよ。だって、約束したじゃん」


きっと、もうわからなくなってしまいそうな曖昧な記憶。
でも、私にとっては鮮明ではないけれど若干、覚えているような記憶だ。


「はやく、宗介に会いたいよ」

「…今すぐにでも抱きしめてやりてぇよ」


宗介の言葉に、単純だと思うほどに安心して、最初のイライラや胸の痛みまで全てなくなってしまうほどの魔法だ。
宗介は私にとっての魔法使いだ。



魔法使いの

(「来週の土曜の午後、空けとけよ」)

20140904

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