ヴァンパイア騎士

□私から贈る呪縛
1ページ/1ページ

吸血鬼が夜間部ではなく、普通科で過ごすことの重大性を拓磨が説いてくる。
視界の端に捉えられた枢は外を眺めているから、ちょうど風紀委員の見周りで来ている優姫がいるのだろう。
必死に枢に語りかけているのに、枢はほとんど拓磨の話を聞いていない。
吸血鬼が人間と共存は、まだ早いという結論に至る。
拓磨が落ち込みながら、枢の部屋を出ていくのに着いて行けば、いきなり抱きしめられた。


「拓磨、どうしたの?何だか、いつもの拓磨らしくないよ」

「どうしたって聞かれてもね。…、やっぱり響華も枢と意見は同じなの?」

「私はわからない。枢の考えに賛同というよりも、ここに来たこと自体が私の意思じゃない」

「そっか、そうだよね。ごめんね」


指が食い込むんじゃないかと思うほどの力で抱きしめられて、正直身体が痛い。
痛いと言っても拓磨は放してくれないだろう。
枢は私の意見など聞いたことはない。兄に従うべきと勝手に思っているのか、ただ優姫以外に興味がないだけなのか…。
考えたところで何もこの状況は変わらない。
拓磨に抱きしめられるのは嫌いではないからこのまま身体の痛みくらい我慢できる。
だけれど、何も反応しない私を心配したのか力が緩む。


「ねえ、拓磨。拓磨が必要だと思うなら頑張ればいいよ。私は枢じゃなくて拓磨の味方だから。何百年かかってもいい。拓磨が死んだあとは私が拓磨の意思を引き継いであげるから」

「…そんなこと言われたら、僕の立場がないじゃないか」

「あなたが一扇に似なくてよかったと私は思うよ。そうじゃなければ、拓磨のそばになんていない。お母様も言ってたよ。拓磨は一扇の孫とは思えないほどいい子だって…だから」


言葉を続けたかったのに、次の言葉を紡ぐことが出来なかった。
純血種である私の言葉に拓磨は従うだろう。枢に刃向かうことが出来るのは枢自身が本気で純血種の力を使わないだけ。
私はそんな枢みたいな優しさは持ち合。
同じ玖蘭の血を引いていても私は李土叔父様に近いのかもしれない。
ただ私は拓磨を手に入れたいだけ。この狂気は李土叔父様の狂気にも似ている。
紡ぐことの出来なかった言葉の代わりに「私だけのものでいて」と心の中で呟きながら白い首筋にそっと牙をたてた。


20170205

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ