ヴァンパイア騎士

□君が望むなら
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※李土妹


お兄様がお父様とお母様を殺す瞬間を見てしまった私は屋敷にいることを拒んだ。
いつか、私もお父様とお母様のように殺されると思うと怖かったからだ。
悠や樹里には何も告げに出ていくことを決意し、匿ってもらう先に選んだのは依砂也の屋敷。


「いきなり、押し掛けてくるとは樹里みたいだね」

「うるさい。私と依砂也の仲でしょ。これくらい、許してよ。それに、もうあの屋敷には戻りたくないの」

「…何かあったんだ」

「まあ、ね。次の夜会になったら嫌でも知ることになると思うよ」


「そっか」なんて、興味なさそうに答える依砂也は本当に興味がないんだろう。
こんな男に妻がいたこと自体びっくりしてしまうくらい本当に吸血鬼について関心がないみたいだ。
だから、私が依砂也を選んだのだけれど。


勝手知ったる依砂也の屋敷に住むようになってから2週間が経った。
何事もなくゆっくりした時間を過ごす中で、遂に夜会の手紙が届き内容をみれば、内容だが玖蘭夫妻を偲ぶなど私が失踪したとの玖蘭だらけの内容だった。
貴族達はそんなにも媚びへつらうことしか考えられないのかと思うと、樹里や悠にいろいろと押し付けてしまったことに罪悪感に駆られる。
私はただお兄様から逃げた。その事実は変わらない。
きっと、私が恐怖に感じているものを依砂也はわかっているんだ。
でも、この夜会には出席しろとうるさいから何か考えているのか、少なからず期待している。



***



夜会当日
逃げようとする私をハンターの如く捉える姿は本当に怯えるしかなく、そのまま大人しく侍女に預けられた私は依砂也の死んだ奥さんの形見とも言えるドレスを身に纏うことになった。
思い出の詰まったものを私に着させるなんて、本当に何を考えているのかわからない。
でも、お兄様といるよりはマシだ。
会場に着けば、少なからず周りには貴族たちが寄ってくる。そして、私を見れば皆が驚き樹里や悠までもが目を丸くしている。
そんな私を突き刺すような冷たい視線でみるのがお兄様だ。
何を考えているのかわらない人。ずっと、そうだった。樹里が生まれるまで執着心なんて持ったことのないような人が、いま私を視ている。
それが、ただの恐怖だ。
そんな私に気付いたのか依砂也がそっと肩を抱いてくれる。


「今日、皆さんには知らせなくてはいけないことがあります。私たち、昌藤依砂也と玖蘭響華は婚約しました」


突然の依砂也の発言に周りが騒めき、群がりができる。
私の位置からはじめてお兄様が確認できなくなったことに喜びを感じながらも、問うてしまう。


「…っ、ふざけてる?」

「真面目なつもり。李土から逃げたいのだろ」

「そうだけど」

「じゃあ、利用してくれて構わない。それに、響華のこと好きだからな」

「はっ、そんなことはじめて聞いたんだけど」

「それは、はじめて言ったからな」


騒めくなか私たちの会話なんて耳には入らないようで、祝福の言葉が飛び交う。
そんな言葉たちに純血の君として微笑みながら感謝を述べる。
きっと、これが不毛な演出だと気づいているのはお兄様と樹里と悠だけだ。
それでも、私はこのまま依砂也くんの提案にのることにした。
そうすれば、玖蘭に二度と戻ることはないからだ。



20150513
Title:彼女の為に泣いた

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