ヴァンパイア騎士

□欲するモノ
1ページ/1ページ

最近、元老院に人間が出入りしていると聞いて興味本位で元老院に足を運んだ。
そもそも、なぜ人間がいるのかと思ったら狂い咲姫−−緋桜閑様がそばに置いていた人間だということを一翁から聞かされた。
そのため、いつ裏切るかわからない。とまで警告付きでの会うことになった。
出会った瞬間に思ったことは、「綺麗な子」。吸血鬼にはない儚さを持ち合わせた顔で綺麗に本心からではない笑みを浮かべる姿が痛々しくて、私は好感を持つことができた。
こんなにも不器用な子は、私の近くにはいないからかもしれない。
気に入ったから、そばに置きたいと一翁に頼むけれど黒主学園で生活しているから無理だと断られてしまった。
枢様の箱庭ともいえる、あの学園にいるなんて…。
手に入れるのは難しそう。
そう思っていたけれど、ハンターの家系に生まれた彼はかなりの頻度で元老院に姿を現す。
一瞬、暇なのかとも思ったけれどそんなはずはないか。
李土様が目覚めた今では、外のことに構っている余裕なんてない。
何たって、枢様から王の座を…玖蘭当主の座を奪うために躍起になっているところだもの。
そんな私は今日も今日で暇な元老院に呼ばれた。
李土様に面会するために、というのが建前だけど、李土様は私のことなんて興味がない。
私のことよりも私の血に興味があるだけかもしれない。
交わったとはいえ、純血種と貴族階級の混血だから。
純血種同士の吸血は最大の禁忌とされている。それに、私は混血のために純血の家では受け入られることもなく、貴族として生活している。
そんな私が手に入れたいと思ったものくらい与えてくれてもいいじゃないか。


「あれ、珍しいね。キミがこんなところにいるなんて。李土様のおそばにいなくていいのかな?」

「あなたは…?」

「ああ、ごめんなさい。私はね、藤邑響華。よろしくね、閑様の従者さん」

「響華様…、閑様を知っているんですか?」

「会ったことはないけれど、有名だからね。狂い咲姫は」

「そうですか。…あっ、失礼しました。俺は錐生壱縷です」

「知ってるよ。一度、会ったけど忘れちゃったかな」

「申し訳ありません。あまり、覚えていなくて」

「いいよ。私、どうせ李土様のエサだし」


エサという言葉に敏感に反応を現した。
きっと、不思議なんだろうな。吸血鬼のエサは人間だと思っているから。
私も以前まではそう思っていた。
でも、李土様が目覚めてから私はあの人のエサへと成り変わった。


「失礼ながら、あなたのような方が、なぜ李土様のエサをしているんですか?」

「私、純血種との混血なの。だから、李土様は私の血をご所望するの。でも、私は壱縷くんみたいな子の血がほしいな。私がここまで何かを欲するのははじめてなんだよ。それに、まだ閑様のものになってないんでしょ。だったら、私に吸わせてよ。吸血鬼にすることができない私だったら、安心して吸わせてよ」

「…何を言っているんですか」

「ふふふ、吸血鬼なんて理性の皮を被った獣なんだよ。だから、気をつけなきゃダメだよ。美味しそうな匂いをばら撒くあたりが質の悪い壱縷くん。じゃあ、私は李土様の食事に行かなきゃ」

「…待ってください‼」


そっと、振り返れば「響華様が血を欲するなら、俺はあなたに血を与えます。だから、あとで…」と、苦しそうな悲しそうな顔をしながら私を見る。
なんて、可愛い子どもなんだろう。
人間をそばに置きたくなる理由がなんとなくわかる。
それでも、私には人間を吸血鬼に変える力はない。
レベルEにしなくて済むのが救いなのか、それとも、永遠に欲しいものは手に入れることはできないのだろうか。
そう思いながら、壱縷の顔を見る。


「李土様の食事が終わったら、俺の血を」

「私にそんな体力が残っていたらね」


私に体力が残っていたら。
それは、本当のことだ。いつも限界まで血を吸われ続ける私には体力なんて残っていない。
だから、叶わない望みだとしてもいつかは壱縷くんの血が吸えるんだ。
それを楽しみに李土様の元へ向かう。



2015416

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ