ヴァンパイア騎士

□求めるあたなと拒絶しない私
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※樹里が人間の高校に通ってたとき


そっくりだね。いつも、言われ続けた言葉。
その言葉が私と樹里を、ちゃんと見てくれていない言葉だ。
それでも、明るくて人気のある樹里と比べて、地味だと思う。
きっと、お兄様たちも明るい樹里のことが好きだから、いつも樹里ばっかりに構うんだ。
私にはお兄様たちの興味や関心を集めることは出来ないと悟ったときから、私は樹里には勝てないと思った。
それでも、私は樹里が好きだ。


「ねえ、響華。私がもしもだよ。悠と結婚したら祝福してくれる?」


大好きな樹里の言葉。
そうだ、私は樹里が好きだから樹里の力にならなくてはいけないんだ。
李土お兄様には可哀想だけど、私は樹里の恋を応援しなくちゃ。
そう、思うと頷くしかできなかった。
そんな私に樹里は抱きついてくる。このときが一番好きだ。


冬休みになって一時帰宅したときも、樹里の周りには李土様に悠お兄様がいる。
わたしの周りには、気まぐれで飼ったアレキサンダー(ダックスフンド)がいるだけ。
この差は何だろうって、ずっと思っていたけど、やっぱりこの差は、性格なんだと思う。


「…響華、聞いているのか」

「えっ?」


アレキサンダーを撫で回しすぎて、すごい苦しそうな声をあげている。
その上、いつもなら話しかけてこない李土お兄様に話しかけられて私はどうしたらいいのだろう。


「あっ、ごめんなさい。考え事をしていて。何のお話ですか?」

「今日の夜会のことだ」

「…夜会?」


何のことだかわかっていない私に李土お兄様は呆れたように説明してくれた。
いつもは説明なんかしてくれないのに、どうして今日に限って優しいんだろう。
それが疑問で、アレキサンダーが腕の中から逃げ出したことにも気付かなかった。


「私も行かなきゃダメなのですか?」

「当たり前だろ。昌藤がお前も連れてこいとうるさいんだ」

「依砂也くんが?」

「そうだ。だから、いつまでもボケっとしていないで準備をしろ」


李土お兄様に無理やり部屋に連れて行かれ、メイドさんに着替えるように指示を出している。
私はただ、呆然と立ち尽くしていると、李土お兄様は「お前は風呂にでも入っていろ」と言われた私は大人しく、それに従った。


「お兄様、このドレス私が持っているものではないです」

「ああ、それか。俺が選んだ」


素っ気なく返されるが、その言葉が私の心を満たしてくれる。
だって、初めてじゃないだろうか。
李土お兄様が私に何かを与えてくれるのは。
いつもなら、全て樹里に注がれていた優しさが私に向けられた。
それだけなのに、私は嬉しい。


そのまま、夜会に連れて行かれた私はいつも以上に苦しかった。
夜会なんて嫌い。ただ、お母様とお父様の死を悼む言葉ばかりを聞くだけの退屈な会。
依砂也くんが招待してくれた夜会じゃなければ、多分来なかったと思う。
樹里や悠お兄様は少なからず心を痛めていた。
李土お兄様は涼しそうな顔をしながら、会話をしている。
私はというと、周りから物珍しそうに見られている。


「玖蘭の末姫は、あまりに夜会に出席しないからだな」

「お兄様?さっきまで、あちらにいらしたのによろしかったのですか?」

「くだらない」


そう言いながら私の隣に来る李土お兄様がよくわからない。
今日限りの優しさに私は、酔いしれているのだろうか。
今までは樹里ばかりで私を見てくれなかったお兄様が私に構う理由はただひとつだけ。
樹里と悠お兄様が婚約するからだ。
きっと、李土お兄様は樹里の代わりとして私に構うのだ。
私が樹里の代わりになれるなんて思えないけど、李土お兄様の気持ちが紛れるならそれでいい。


求めるあたなと拒絶しない私


20141214

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