ヴァンパイア騎士
□幸せな不幸とでも名付けようか
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「ねぇ、依砂也くん。すべてが、終わったら静かに暮らそうよ」
仮面舞踏会を開いたら依砂也くんに、声を掛ける。
死んでしまった依砂也くんの妻は、私の姉だった。
近くにいてはいけないと思い依砂也くんから距離を置くように結婚した。
そんな私の夫は最近、玖蘭の当主に殺された。
狙われてたのは、私だったのにあの人は私を守って死んでしまった。
哀しみにくれた私の元に現れたのは、距離を置いていたはずの依砂也くんだった。
「そうだね。私たちも平穏を願ってもいいはずだ」
「うん。静かに暮らしてね。私は依砂也くんの子どもを産むの」
「子どもか…永遠に等しい時間を過ごす子どもを作るのか」
「依砂也くんはそういうかもしれないけどね。私とあの人との間にいる子は今や家族を持っているんだよ。それに、幸せそう」
「……響華との子どもなら悪くないか」
きっと、姉様のときは産まれてすぐの子どもを人間にしてしまったから、成長を見届ける楽しさを知らないのだろう。
私だって、子どもがいなければきっと退屈な生活をして、いつか終わるときを、ただ待ち続けているだけだったと思う。
「きっと、この哀しい物語も終わるはず。優姫は、樹理と悠の子どもなんだから。樹理のように最善の選択をしてくれる」
「私はいつ終わるかもわからない生を、ひとりで生きていくことに疲れていたのかもしれないな。はやくに、妻と子を亡くしたために」
「だから、私がいまはそばにいるよ。これからも、ずっと。依砂也くんが死ぬまでずっと一緒にいてあげる」
「響華は妻とは違うんだね」
「当たり前だよ。姉様と同じだったら、私ももう死んでいるからね」
「そうだな」
そっと、肩を抱き寄せられる。
そのまま身体を委ねれば、依砂也くんがしっかりと受け止めてくれた。
きっと、私はいまお姉様以上の幸せを手に入れられたんじゃないだろうか。
誰もいないバルコニーで、そっと寄り添うことが、いまの幸せだ。
20141027
Title:寡黙