ヴァンパイア騎士

□こぼれ落ちた星屑
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※枢の叔母

 
血ってどんな味?

小さい頃に、枢に聞かれた言葉。
私はそのときなんて答えたんだっけ…
あまりにも、昔過ぎてどう答えたのかは忘れてしまった。

そう、あの頃の枢はまだ幼くて生気を吸うことしかできなかったのだから。
私の生きてきた年から数えれば、一瞬のことだからかしら。



「響華さん」

「久しぶりね、枢」

「やっぱり、僕たちと暮らしませんか。優姫もいます」

「誘ってくれるのことは、嬉しいのよ。でも、ここは私と愛したあの人と暮らした思い出があるのよ」



屋敷で本を読んでいたら、枢が訪ねて来た。
枢が来るのなんて、夜間部をつくると言って来たとき以来だ。
とても、懐かしい。

本に落としていたはずの目を枢に合わせる。
本当に、悠に…李土に似ている。
なんだか、昔が懐かしくなってくるわ。



「どうしてですか」

「どうしてかしらね。手を胸に当てて考えてごらんなさい」



私の言葉どおりに、手を胸に当てる。
本当に素直な甥っ子だと思う。
私の気持ちがどこにあるのかわかっているくせに。
私の言葉には昔から従って。



「枢は誰かを愛している?」

「ええ。…僕はあなたのことを」

「それ以上、言っちゃダメ」



しーっと、人差し指を枢の口元に押し付ける。
驚いているのかわからない表情。
表情を殺すのは、本当に得意分野みたいね。
これも、玖蘭の血なのかしら。
樹里もそうだけど、悠も…李土も…

なんで、みんな私を置いて行くのかな。
すごく悲しくなってくる。



「そんなに悲しい顔をしてどうしたんですか」

「枢には秘密だよ。私の悲しみは誰にもわからないよ」

「そんなことは…」

「…時間」



ぽつりと呟いた言葉に枢は反応したのか「僕はまだいなくなりませんよ」そう言ってくる。
誰に似たのか。
こんなに人に気を使う子だったとは…。



「枢は優姫と一緒に過ごすのが一番だよ。誰かを失うのじゃなくて、守らなきゃ。それが、大事な妹なんだよ。婚約者である優姫」

「それは、悠と樹里が勝手に決めたことで」

「親をそんな風に呼ぶんじゃないよ」



知っているよ。
枢が樹里と悠の本当の子じゃないのは。
あのとき李土を止められなかったのは私だから。
知っているんだよ。
だから、枢なんにも言わないで。
私は自分を責めてしまいそうで…



「僕は玖蘭の始祖だ」

「…知ってるよ。全部、知ってる。この前、李土を殺したんでしょ」

「…」

「私の大切な兄を殺したんでしょ。…知ってるの。すべて、知ってるの。あなたが私を本当は殺しに来たことも。もう、純血種を殺してこの世界を終わりにしようとしていることも。優姫に害なき世界を創ろうとしていることも」



すべて知ってるの。
私の変わりに放った鳥の目を通して…すべて知ったから。



「響華さんは、何を勘違いしているんですか。僕が創ろうとしているのはあなたと住むための世界ですよ」



私の髪を掻き分け、首筋を撫でる。
手つきにうっとりしそうになる反面…恐怖を感じる。
なにを考えているかわからない甥っ子に。

そのまま首筋に埋もれるのはすぐのことだった。



「甘いですね。昔、あなたが言った通りだ」



そうか、私はあのとき枢に言ったんだ。
「甘いものだよ。それは、好きな人だととても甘いものなの」
そう言ったんだ。

首筋に牙を立てた甥をどうしても、いまの私はただの獣としてしか見られないでいる。
枢の目は赤く光る吸血鬼そのものだから。




こぼれ落ちた星屑


20120821
title:空想アリア

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