ヴァンパイア騎士

□綺麗な嘘を吐く
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「枢、今夜の夜会にご招待感謝するわ」



可愛い甥に招待された夜会。
久しぶりに来てはみたが、純血種に諂う貴族階級ばかり。
嫌いだった…。
夜会なんてなければよかった。
いつも、そう思っていた。



「響華さん、来てくれたんですね」

「ええ、枢が開いた夜会なのだから、同じ玖蘭として当然のことよ」



可愛い甥…枢。
樹里と悠の子供。
愛しい人たちが残していった宝物。
それと、同時に私が愛した人が求めた女の子供。



「どうしたんですか?」

「なんでもないわ。枢、もっと近くで顔を見せてちょうだい」



どこかと、愛しい人の面影を持つ枢。
私はあの人に愛されていたのかしら?
ただ、樹里の代わりに愛されただけだったのでは…
李土がいなくなった今ではわからない真実。

枢の頬に手を添えれば、手首を掴まれる。

拒否をするの?



「…響華さん」



儚い声。
悠に似た声で、私の名前を紡ぐ。
そして、掴まれた手首はもとある場所へと導くように下ろしていく。


ちゅっ…


枢が膝まづいたと思えば、下ろした手の甲にキスを落とす。



「枢、私のことをからかっているの」



こんなこと、されたこともない。
しかも、こんなに貴族の多い場所で。



「からかってなどはいません」

「なら、なんでこんなことするのかしら?あなたには、あそこにいる可愛らしいお嬢さんがいるじゃないの」



私の視線の先にいるのは枢の妹。
…優姫
樹里に似た女の子。
あの憂いを帯びた瞳は、李土を見るときの樹里にそっくり。
嫌だ。こんな空間。



「…優姫のことですか」

「そうよ、樹里に似て綺麗ね」



皮肉を込めることしかできない。
樹里の子供。
李土が愛していた女の子供。


私が望むことのできなかった結晶。


こんな醜い私はどうしたらいいのかしら。
おかしくなりそうだわ。



「僕は優姫より響華さんのほうが綺麗だと思っていますよ」

「そんな、見え透いたお世辞なんていらないわ。誰からも愛されなかった私にそんなこと言ってもなにもないわよ」



心が醜い。
どうしたらいいのかしら。



「僕は…僕はどうしたらいいんですか?あなたを愛してしまった僕は…どうすれば、あなたを手に入れることができるのですか?」

「戯言よ」

「本気ですよ。優姫を捨ててでもあなたを手に入れたいんですよ。響華さん」



枢の前から去りたい。
去りたいのに去れない。
掴まれた右腕。
離して…離して



「逃げないで。…僕から逃げないでください」



枢の掴んでいる私の右腕に爪が食い込む。
力が入らない。

枢を見た瞬間、薄く笑った。

何を考えているの?この子は…



「藍堂、悪いが響華さんを連れて2階にいっているよ。彼女の体調が優れないようだから」

「はい、枢様」



枢の言葉は矛盾している。
私の体調が優れなくなったのは、あなたのせい。
そして、愛していると言っているのに、あなたの言葉には愛がない。
そう…李土がはじめて私に「愛している」と、言ったときと同じ。




綺麗な嘘を吐く


枢は、私を殺したいんでしょ?
李土の子を宿した私を…



20120321
Title:空想アリア

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