ヴァンパイア騎士
□惨めな快楽主義者
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「私って李土様のなに?」
そう聞いてくるのは、ヴァンパイアでもないただの人間。
おもしろそうだからと、適当に連れてきた女だ。
昔、純血種の愛人として人間からヴァンパイアになった女がいたことを思い出せば、その純血種の気持ちがわかるのじゃないかと思った。
「そうだな。興味の対象か」
「なに、それ。李土様ってでも奥様いるじゃないですか。ちゃんと、愛してあげなきゃダメですよ」
あいつのことか。あいつとの間には愛など存在しない。
僕の愛が存在するとしたら、樹里だけにしかない。
この家だって、僕の暇つぶしのためだけに響香に与えただけのもの。
「それに御子息もいらっしゃるらしいじゃないですか」
「その話し方はやめろ」
「はぁい。でも、李土様って誰も愛してないよね」
この女は何なんだ。人をイラつかせるのが得意なのか。
キャハハと笑っているこいつを見ていると呆れて何も言えなくなってしまう。
生きる時間が短いからか、一喜一憂する姿を見るのはおもしろい。
響華もそうだ。泣いていると思えば、すぐに笑う。不思議だ。
「お前は口を開けばいつもそのことばかりだな」
「だって、気になるじゃないですか。私たちって恋人でも愛人でもない。じゃあ、なにって」
「強いて言うなら愛人だな」
そっかーっと短い返事だけが返ってくる。
そして、ずっと一緒にいるというクマの人形を抱きしめ顔を埋めてしまう。
そうしてしまうと、僕に顔が見えないのにだからやめて欲しい。
「おい、顔をあげろ」
「…知ってますか。中国では愛人と書いて恋人って読むんですよ」
「それが、どうした」
そんな知識などどうでもいい。
さっきまでの笑っていた顔はなく真剣そのものだ。
「私、李土様の1番になりたいの」
「大した欲だな」
人間の女の欲など。
そう思えば、馬鹿らしくて何も言う気にはならなかった。
それでも、まっすぐに僕を見る瞳は樹里から決して与えられることのなかった瞳だ。
「お前の瞳は樹里に似ているな」
「誰ですか?」
「僕の妹だ」
「好きなんですね。その人の名前を呼ぶあなたは酷く穏やかな声ですよ」
鋭いのか鈍いのかわからない。
そんな彼女をそばに置くことで、なにを理解しようとしているのだろう。
暇つぶしとしての効果は十分にある。
だが、この会話がなくなることがいつか来るのかと思えば退屈な日々を過ごすのは苦痛なのではないだろうか。
どんなに、くだらない取るに足らない会話だとしても。
「お前をヴァンパイアにしてしまおうか」
そう口にしてしまった時点で、僕は負けてしまったのかもしれない。
自分の本能に。
惨めな快楽主義者
20140223
Title:彼女の為に泣いた