ヴァンパイア騎士

□面影を求めた、
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ただほんの少しだけ
大好きな人の面影があったから私はあなと選んだ。
でも、私が好きなのはあなたじゃないんだよ…枢



「…響華、君はどうしたら僕のものになってくれるんだい?」



窓辺で外を眺めていると部屋の入り口から聞こえてきた声。
振り向かなくてもわかる。
この玖蘭の屋敷の現当主。
玖蘭 枢の声なのだから。



「急にどうしたの?」



何も知らない振りをして枢に問う。
枢は、一歩ずつ私に近づいてきて、後ろから抱きしめられた。
きっと、不安なんだろう…
私が枢の前から居なくなるのではないかと。
きゅっと、抱きしめてくる力が少しずつだが強くなっている。


きっともう枢は気づいているはず。
枢は、とっても聡い子だから。
私が好きなのは枢じゃないことを…
それでも、私がそばにいることを



「君の心は僕の手に入らない。違う?」



あまりに的を得た答え。
そうだよ。
私の心はひとりの吸血鬼のもの。
だから、心は渡せない。
だって心は悠のものだから。
心ではなく、身体は…血は枢のもの。


この2人はよく似ている。
親子だから?
私が愛しているのは枢の父親である悠。
血は争えないとよく言うけれど、玖蘭の当主たちに愛されるとは思ってもいなかった。



「僕は君にもっとも、残酷なことを言うよ」



枢の声は、いつもより低かった。
それに、威圧感があった。
この声は、真剣そのもの。
だから、その声に耳が奪われた。



「響華の君の追い求めるものは、もうこの世界には存在しない」



わかってた。
でも、ただ私は認めたくなかった。
ただ、それだけ…
現実を受け止めてしまえば、もう悠を…
枢を愛さなくては。


枢の言葉は、私を現実へと引き戻す。
もう、忘れなくてはいけない事実と向かい合わせてくる。


だから、私は枢に想いを告げられた日に決めた。
あの人に…悠に似た容姿のあなたを愛すと…




面影を求めた、



きっと、私はまだ悠しか愛せない。
だから、枢を悠の身代わりにしただけ。


そして、あなたは「身代わりでいい」と、そっと囁いた。


20110908
お題: HENCE
裏設定:悠さんの死を受け入れられないままでいて、悠そっくりの枢の告白をそのまま受けてしまった。

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