T

□記憶
1ページ/2ページ


『よう』

『おう・・・』

枝垂れ桜の木の上に妖の俺
木の根本に俺がいる
きっと
記憶の話だろう


『封印は解けた』

『うん』

『お前にやるよ・・・・』

言葉が放たれた瞬間に
記憶が頭のなかに流れ込む

真実はあまりにも残酷で


『どう・・・して?俺・・・なんで生きてるの?』

『・・・』

『あの時・・・俺死んで・・・』

涙が自然と溢れる
俺は死ぬべき存在で
存在してはならないもので

この能力のせいで
「願いを叶える」能力のせいで・・・


『かあ・・・さん・・・おや・・・じ・・・俺・・・俺っ』

『泣きたきゃ泣け・・・此処はお前だけの世界だ』

『あ・・・あぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!』


俺の通っていた高校の卒業式の日
卒業式には両親もいて
覚えていない友人たちと別れを惜しんで

両親は卒業式後
友人達と遊んできなさいと言ってくれた

暗くなるまで遊んで
大学に行くまでにまた遊ぼうと約束して
俺は家に帰った

そこで見たものは
両親の死体

無残に殺された両親の死体
犯人は堂々とリビングのソファーに座ってて
何がなんだかわからなくなった


「よう・・・ジョーカー・・・ベルナーデルの最後の切り札さん」

ベルナーデルは組織の名前
何の組織かは覚えていない


「俺達はお前さんが欲しいのよぉーというわけで・・・手始めにご両親を切り刻んでやった。これ以上大切なやつを殺されたくなきゃぁ・・・分かるよなぁ?」

『母さん・・・親父・・・』

数時間前まで
俺に笑顔を向けていた二人
今は唯の肉片

俺は願った
どうか・・・
この人とその組織の人たちを殺してください

願いはかなった
突然苦しみだした目の前の人
そのまま息絶えた

俺は家から出てふらふらと町中をさまよった
俺のせいで両親が死んだ
この能力があるから・・・
俺が存在するから・・・
誰かが・・・死ぬんだ


「よう・・・こんなところで何してんだい?」

『・・・』

家からさほど遠くない公園
ベンチに座って星を見ていたら声をかけられた


『あんたこそ・・・何してんだよ』

「散歩」


笑う男
こいつ・・・人間じゃない


『妖怪・・・か』

「分かるのかい?」

男は薄く笑って俺を見る
どうやら興味が湧いたらしい


『能力のお陰でな・・・』

人間じゃないと思った瞬間に
この人の正体を教えて下さいと願った


「へぇ・・・能力」

『そう・・・願いが叶う能力』

「そんな能力ホイホイと人に教えちまっていいのかい?」

『いいさ・・・もう・・・どうだっていい』

ベンチから立ち上がり
大通りに行く


「またな」

『・・・』

笑いながら手を振る男
両親が死んだ
俺は両親がいるからこそ生きていけた
その両親がこの世から消えた

ならば、俺が生きる意味は無い

そのまま大通りでトラックの前に飛び出し
俺は死んだ
はずだった

誰かが俺を転生させ
記憶を消そうとした

きっと能力を自分のものにするために
記憶を消して赤子の時に育てようとしたのだろう
しかし、原作知識を入れてトリップに見せかけた理由がわからない

一体何のためにそんなことをしたのか
もしかしたら、転生が上手く行かず別のところに行く可能性を考えてそうしたのかもしれない
どこから原作知識を手に入れたのか知らない

どっちのしろ
そいつも能力者だ

それと
あの時の男

あいつは・・・
親父だ・・・奴良鯉伴だ・・・
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ