ディバインゲート
□暇潰し
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五分ほど経過したところで目を開く。
『…………………………おい』
彼女はすぐ目の前にいた。
近すぎた。
正直びっくりしたが、敢えてびっくりしないフリをしてみせた。
『ヤスツナくん、睫毛長いんだね』
『お前もな』
女とこんな至近距離で会話したのは初めてだった。
心臓がドクドクとうるさい。
聞こえていないだろうか、と心配になる。
『………』
『…いつまで見てんだよ』
『かっこいいなーって』
『当たり前だろ』
なんて、言ってしまう。
ナルシストかよ、といつもなら言われてしまう。お決まりの返答だと思っていたのだが彼女は、
『私好きかも』
と言う。
『は?』
なにいってんだ、こいつは。
一瞬思考が停止する。
『(いやいや待て待て、俺はこいつの名前を知らない(覚える気が無い)し、殆ど話した事なんてないのに、こいつは俺を好き?どうかしてる、俺の幻聴か?そうだよな)』
口にするとかなりの早口だろう。
彼は無表情のまま、冷静を装いながらそんな事を考えていた。
『あとヤスツナくん、そんなに胸元開けちゃって…』
『どこ見てんだよ』
『違う違う、そんなんじゃなくて!』
『だったらなんだよ』
あーもうめんどくせぇ。
目の前には女がいて。
服装にケチをつけられて。
『その、寒くない?』
『………』
なんの心配をしてるんだこいつは。
さっきから本当に意味が分からない。
『…そろそろ退けよ』
考えるのさえ邪魔くさくなってきた。
ここを離れたい、もう早退してやる。
とまで計画した彼はとりあえず目の前の彼女を退かすべく、その名も『怖がらせて退かせよう作戦』を実行。
低い声でそう言うと、案の定彼女は離れる。
ヤスツナは起き上がって、寝転んで乱れた髪を手櫛で整えてから立ち上がった。
そして、感じる視線。
『………なんだよ』
じっ、と見つめてくる。
鬱陶しい。
『帰るの?』
『ああ、だから着いてくんなよ』
『でも授業…』
『代わりに受けとけ』
といって、屋上の入り口の扉の元へと歩いていくと彼女は其処をとおせんぼする。
ぷちん、と何かが切れた音がした。
さすがに、我慢の限界だった。
とん、と扉に手をつく。
相手の両足の間に、己の足を入れて逃げられないようにして。
『なぁ』
と、低い声で言うと彼女は肩をふるわせた。
『な、なに』
『いい加減キレた、風を感じていたのにお前の所為で台無し、どうしてくれんだよ』
なんでこんなに自分も怒っているのかわからなかったが、今はそうしないと気分がおさまらなかった。