ディバインゲート
□夜をともに。
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『あの…』
と、聞こえづらい声を発して部屋のドアを開けこそこそと入ってくるひとりの女。
『あれ、あれ?』
あたりを見回し、とある人物を捜す。
そんな所に居るわけもないのに、ゴミ箱を覗いてみたりしてずっと人物を捜し続ける。
『い、いない…!?』
心底ショックを受けているのか、肩を落として床に座り込む。
頭の上で、しょぼーん、と字が浮かんで見えるくらいに落ち込んでいる。
『(かわいい…!)』
子を見守る親のような目線で女を見つめるのは、捜されている本人の水神シグルズであった。
口元に手をそえて、ぷるぷると震えて暫く監視をしていたのだが落ち込む姿があまりにも可愛らしくて、この可愛さをどう誰に伝えれば良いのだろう、と考える。
『(…ヘグニ達女子はわかってくれないわよねぇ、ヘルヴォルは割と大人じみてて流されちゃうかもしれない、スルトなんて女の子にすら関心がないから駄目だわ…)』
シグルズはむむ、として目線の先の女をじーっと見つめる。
さすがに気づいたのか、女は振り返りシグルズの姿を確認すればすぐさま駆け寄り、ぎゅうっと抱き締める。
『あらあら、甘えたな名無しさん…こんな時間にアタシの部屋に来て、一体なにがあったの?』
『なんか、こわい夢見たから一緒に寝て欲しいな、なんて』
子供みたいに震える名無しさんを優しく包むように抱きしめてやると、少しだけ震えがおさまってくる。
『もう、アンタも子供じゃないんだから夢見たくらいでビビって泣いてんじゃないわよ…』
『だって、ほんとにこわかったから…それに、ヘルヴォルくんは寝てるしスルトさんは多分起こしたら不機嫌そうだし、ヘズちゃん達は3人一緒に寝てて入りにくくて…』
『それで、アタシの所に来たってわけね?』
『…うん』
ぎゅう、と親に甘える子供のような仕草をする名無しさんの頭を優しく撫でてやる。
それはあまりにも気持ちよくて、眠気が直ぐに襲ってくる程だった。
『もう、ふらふらじゃないの…』
『だい、じょうぶ』
『全然そうは見えないわ、歩かせたら柱にぶつかってそのまま寝そうなくらいに眠そうだもの』
というと、すっと名無しさんを姫抱きにしてベッドまで運ぶ。
眠そうではあるものの、姫抱きにされ驚いたのか突然暴れ出す。
『ちょっちょっと、おとなしくしなさいよ』
『だっだっ、だって、重いでしょ…それに、シグルズ細くて、その』
『細くて力が無さそうって言いたいの?』
姫抱きにしたまま、ずいっと顔を近づけそう言うと、名無しさんは目を逸らし、はい、と返事をした。
『失礼しちゃうわ、アタシだって力あるのよ?』
『象持ち上げられたり?』
『なに言ってんのよ無理に決まってんでしょ…』
呆れた表情を見せたあと、シグルズはベッドに名無しさんを寝かせて、その隣に自分も寝転がる。
『アタシが傍にいれば、安心して眠れるでしょ?』
細い指で髪をとかしながら、色っぽく笑う。
そんなシグルズに、どき、としてしまい再び目線を逸らす。
『もう、可愛らしいんだから』
頭から頬へ手を滑らせ、そのまま頬を優しく撫でる。
丁寧に丁寧に品を扱うかのような手つきが、くすぐったくて仕方ない。
『…褒めないでよ、なにもでないんだから』
『はいはい、わかってるわよ。ほら、もう眠いんでしょ、寝なさい』
『シグルズも』
ぎゅ、と袖を掴まれたシグルズは少し目を開く。
目を細めて笑うと、
『アンタが寝たのを確認したら、アタシも寝るわ。朝、アンタが起きるまでアタシは傍にいてあげるから。だから、安心して寝なさい』
『…わかった』
少しだけ残念そうに言うと、そのまま名無しさんは目を閉じた。
『起きたら、ケーキでも食べに行きましょうね』
暫くして名無しさんの寝息を確認すると、シグルズは名無しさんの小さな体を抱き寄せ、目を閉じた。
『おやすみなさい、名無しさん』
─おわり─