偽りの姫君

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【リンク side.】

島全体が 迷宮となっている ローメイ島

その孤島の上で、傷だらけになった身体を引き摺りながら歩む 青年の姿が 深い霧の中から 現れた。

ー…退魔の騎士、リンク。

引き摺る足には 幾つもの深い擦過傷が 刻み込まれている。

…皮膚が 焼け爛れているのであろうか。

身につけている ハイリアのズボンが 少し、焦げ付いているようだ。

雨、と言うこともあり 深くハイリアのフードを被って 顔を隠している為、その表情を見ることは叶わない。

だが、明らかに いつもとは 様子が異なるリンクの姿は 見るからに痛々しい。



(…くそっ、…想像以上だな)



リンクは 傷口を抑えながら 壁に背を預けると、力なく その場へと 屈み込んだ。



(…っ、ちょっと、…俺、ヤバいかも…)



傷口が ドクドクと脈打っている。

あまりの傷みに リンクは肩で息をすると、徐々に遠退く意識に 身を委ねていく…。









『ねぇ、ちょっと、リンク…聞いてるの?』



薄暗い部屋にある天蓋から 白銀の月明かりが 一筋、射し込む。

丸い天蓋の中に、これまた同様の丸い月が 閉じ込められ、こちらから見上げれば 空に登る月でさえも かごの中の鳥のようだ。

本棚の裏側にある 牢獄の檻を抜けた直ぐにある 赤いカーペットが敷かれた部屋…。

牢獄の中に 部屋があると言うのに、周囲の壁面には、持ち手を深紅色で統一された 武具一式が 飾られていた。

小刀、片手剣、薙刀、弓矢、そして 棍棒…。

一式に揃えられた武具達は、念入りに手入れされ 新品同然に 天蓋から受けた光を 反射している。

そんな武具を 尻目に捉えながら、リンクは 自身の目前に座り 頬を膨らましている 声の主へと 視線を向けた。

人差し指の指先で、肩までの長さがある髪を 掬い取ると、くるくると指間に 絡め取る。



「…聞いてるよ」



ライアは 机上で広げていた本を ぱたん、と閉じると 身体を乗り出し、リンクへと迫る。



『もう…っ、近衛騎士採用試験の対策に 兵法を教えてくれって 言ったの、リンクじゃない』



ライアは立ち上がり、リンクに対して 背を向けると、寝室であるもう一間奥の自室へ 向かってしまう。



「ライア、ごめんって。悪かった」



その背中を追い掛けて リンクもライアの自室へと 足を踏み入れる。



「…頼むから、機嫌直して」



嬉しそうに はにかみながら、リンクは述べる。



『………』



顔を背けたまま、ライアは 前身で腕組みをすると 黙りを続けた。



「おーい、ライアさーん。」

『………』

「からかって、ごめんね」

『…………』

「悪気があった訳じゃないんですよ?」

『……………』

「…………………」



リンクは 困った様に、頬を人差し指で掻くと、何を思い付いたのか また 悪戯な笑みを浮かべる。



「……じゃあ、今日は反省して…兵舎に帰るかなー…」



尚も 背を向けるライアに対し、リンクも ライアへと 背を向ける。
今仕方入ってきた 自室の入り口へ向けて、数歩 歩み出した その時…。

か弱い力で リンクの腕が 後方へと引き寄せられた。



『………らな…で…

「ん?」



待ち望んでいた、反応に リンクは思わず笑いを堪える。



……な…で…

「……聞こえないなー」

『〜っ、だから、帰らないでって言ったの!』



リンクが背後を振り返ると、目に涙を溜めて 瞳を潤ませる ライアの顔が 視界に入ってきた。

あまりにも 可愛らしく愛おしい その反応に、リンクは満足したのか 自身の腕の中へと ライアを 引き寄せ、納める。



「ふっ、」

『…っ、何で笑うの?』

「いやっ、…別に」

『…何よ』

「…可愛いなーと思って。」

『………からかわないで』

「俺はいつだって、真剣だけど?」



リンクは、そこまで述べた後、ライアの身体を抱きしめて 額へ口付けをする。



『………ばか』



ライアは 頬を染めながらも、嬉しそうに 満面の笑みを 浮かべていた。





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