偽りの姫君

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ベニバ湖を挟み 片割れの高台にある 特徴的な建造物から一歩、外へ歩み出れば 眼下に広がるのは、彩り豊かに紅葉した 並木達が靡く コーヨウ台地の谷合…

ハイラル王国が存在する大陸と 隣国の大陸を分かつように 穏やかな白波を立たせた海からは、多少不規則に 静寂なさざ波の音色が 反響している。

そんな台地の上で、ライアは 錫杖を片手に 注意深く 周囲を見渡していた。










60:き灯火









『うーん…』



青き灯火が灯る 古代炉を探していたライアは、谷合を跨いで 遥か先にある 青き灯火を 目にし、ため息を吐いた。



「どした?」



ハテノ古代研究所の折り、ライアは 錫杖から集光を行い 意図も簡単に 古代炉へと 青き聖なる光を 導いていたように 記憶しているが、此度のライアの仕草を見たリンクは、疑問の念を浮かべ、ライアへと 投げ掛ける。

ライアは しばらく 思考に浸っていたが、諦め半分の微笑みを浮かべながら リンクへと 返答する。



『今回は、少し 厄介ね』

「…厄介、って言うと?」

『ほら、あそこ、見て』

「?」



ライアが指し示す方角へ、促されるままに 視線を馳せるリンク…。



『…道中に魔物達が 蔓延っているのが 見える?』



ライアが見つめる先の一点を リンクも凝視する。

…確かに。ライアが言う通り、青い図体をしたモリブリンや、ボコブリン達が 縦横無尽に 台地を駆け回っている姿が 見て取れる。



「…確かに、見えるけど…」



リンクは、魔物達の様子を見て さらに疑問を抱いていた。

ー…魔物が 間合いに 居るところで、集光するには 何も問題がないのではないか…?

リンクの疑問を察知したかのように、ライアは答える。



『ハテノ古代研究所と同様、距離に関しては 導けなくもない。だけど今回は リンクが察している通り 間合いに 魔物達が居るわ。

魔物達の怨念に 青き灯火である 聖なる光が 書き消されてしまうかもしれない。』



ー…確かに、つい先程まで 話を伺っていたロベリーも 聖なる光が足りないと、怨念に 取り込まれてしまう旨の話を していたっけ…。



『試しに一度、導いてみるわ』



"よく見てて"

と 言いながら、ライアは 左手に持っていた錫杖の先端にある 聖杯を、遥か遠くにある 古代炉へと 向ける。

聖杯の先端へ、光の力が 集約されると、まるで斜陽のように 光が周囲を 明るく灯していく…。

ー…少し経ってから、リンクは 眩しさから 瞳を庇う為、咄嗟に 顔面を多い隠していた 腕の淵から 顔を覗かせる。



『…ほらね。アタシの読み通り』



ライアが集光した 青き灯火は、ベニバ湖の畔、中程で 周囲に屯っていた魔物達から 放たれた 怨念により 書き消されてしまっていた。



「…ってことは…」

『歩いて導くしかなさそうね』



ライアの集光の結果を 目の当たりにしたリンク…。

思わず、心の声が 口から漏れ出てしまう。



「…マジかぁー…」



落胆したように、肩を落とすリンクとは対称的に、ライアは 妙に張り切りながら、括れた両腰に 拳を当てた。



『さ、これも修行の一環。早速、向かいましょう』

「…相当、時間 掛かるんじゃねーか…?」



…今から辿るであろう、眼下に広がる コーヨウ台地一帯を 目に焼き付けたリンクは、何度吐いても 止まらない タメ息を 吐きながら、更に深く 肩を落とす。



『…アタシに、考えがあるわ』



肩を落としていたリンクは、片眼で ライアの方を 覗き見る。

口角を上げて、楽しそうに微笑むライア…。

…軍師の血でも、騒いでいるのであろう。

心なしか、少しばかり 楽しそうにしながら 歩み出したライアの後ろ姿を、背を正しながら 見つめるリンク…。

ライアが練り上げる作戦に 期待をしつつ、リンクは 微笑むライアに従い、その背を 追い掛けて 歩み出した。





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