偽りの姫君

□33
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黄昏の光に照らされた 岩肌に、町を流れる 溶岩の火の粉が 舞っている。

ゴロンシティを入って 一番上座にある 通称、組長なる者の屋敷の目前で、如何にも貫禄のある 眼帯をした 老人は 1人 腕を組みながら 思考を巡らせていた。











33:北の










「…あ、あの〜…」

ちっくしょお!ルーダニアのヤロォ!

「!?」『!!』

「…おっと、驚かせて すまねぇ。お客人か。」



感情を爆発させ 地団駄を踏んでいた組長は、リンクとライアの姿を見ると 先程、思考を巡らせていた時のように 再び腕を組む。



『…ルーダニアと 仰いましたが…。どうか されたのですか…?』



我を取り戻した組長は うーん、と 拭いきれない悩みを吐き出すかのように 応えた。



「…ああ、最近ルーダニアが暴れ出したせいで デスマウンテンの噴火が激しくてなァ」

「…少し、風の噂で 小耳には 挟みました。」

「…そうか。実際に 見てもらったら、一目瞭然だろうが…。

ルーダニアってのは あそこに居るヤツだぜィ」



 そう述べて、背後に聳え立つ デスマウンテンに 視線を向ける。

組長と同様に リンクとライアも 黄昏に染まり始めた デスマウンテンを 見上げた。



―…ただでさえ赤い デスマウンテンが、山肌を夕日に濡らして 更に赤く 燃え上がっている。

その山肌を蔓延る 巨大な蜥蜴様の生物、神獣 ヴァ・ルーダニア…。

巻き上がる噴煙を 気に留める様子もなく、山肌を縫うように 歩き回る姿は、まさしく 炎の山の守り神の名に 相応しい 出立ちを している。



「100年前は オレ達の守り神だったらしいがよォ…」



再び視線を 話を再開した組長へと向ける。



「…アイツのせいで 採掘はできねェわ、客足は減るわで 困ってんでィ…

毎度毎度 大砲で 火口へ追っ払ってんだが…

ま〜〜た 出て来やがったァ!!



ゴキッ



うっ…!」

「!?」『!!』



骨が軋むような 鈍い音が、微かに 聞こえる。



『組長さん!』



その音が鳴った後、腰を抑えて蹲る組長の元へ ライアは 駆け寄る。

リンクもライアに続いて 対面側へ向かうと 2人で 強大な肉体を持つ 組長の腋窩を支え、地面へ座るよう、体幹の誘導を 行った。



「お〜〜…いちちちち…すまねェ…世話、掛けちまって…

「いえ…それより、大丈夫ですか…?」

「あァ…ちょっと腰痛がな…」



痛そうに 腰を擦る 組長は、地面に腰掛けて 落ち着きを 取り戻すと 2人を交互に見比べ 額をポリポリと掻く。



「…っていうか 誰でィ?」

『突然、申訳ありません』

「…僕たちは、旅の者です」



こんな時世に 珍しい ハイリア人の訪問者に、組長は 痛みに耐えながら 笑顔を向ける。



「そうか…アンタらが あの商人が言ってた ハイリア人の旅人か…。」

「…あの商人…?」『?』

「いや、何でもねェ。こっちの話だ…。

そんなことよりも 旅の者が わざわざオレに 挨拶に来たって ワケだなァ?!」



今では貴重とも言える 旅の者に対して、失礼があってはならないと 組長は 身体を 地面から起こすと 大きく息を吸い込んだ。



俺の名はブルドー

泣く子も黙る ゴロン組 組長 ブルドーとは オレの事よ!」



バキッ



うっ…」

「!?」

『…あまり、ご無理 なさらないで…』

…すまねェ…



両腋窩を支えて ブルドーを 再び地面へと座らせる リンクとライア…。

何度も、何度も、小さな声で謝る ブルドーの腰を ライアは優しく 擦っていた。



「ちっくしょォ…これから また、ルーダニアを 追っ払わなきゃ いけねェってのに…。

…こんな時に ユン坊のヤロー…何処へ行きやがった…。暫く 戻らねェが…

「…ユン坊って?」

「あァ、ユン坊ってのァ いつもオレがルーダニアを 追っ払う時に 引き連れて行く 若いヤツだァ」



ブルドーは 屋敷の正面向かって 左側へ伸びる道を 見つめる。



「腰の痛み止めを 取りに行く、と言って北の廃坑に 向かったっきり まだ 戻らねェ…。

ヤロー…どこをフラついてんだァ…。まさか…また、逃げ出した訳じゃ あるめェなァ…。

いや、心根の優しい アイツのことだ。流石に そんなことは しねェだろ…いや、でもなァ…アイツのことだから…


あァ、クソッ!!

「!?」『!!』



何やら 呟いていたブルドーは、額を掻きむしると 自らの考えを払拭するかの如く 頭を横に振る。



こんなに頭ァ捻るなんて オレらしくもねェ…

なァ、アンタら!アンタらの腕を見込んで 頼みが あンだ!

もし ユン坊を 見掛けたら オレんとこまで 引き連れて来てくれねェか?」

「…それは 構いませんが…」

『アタシ達を見込んで、と申しますと…?』

「…それは ユン坊が 戻ったら、だ!

すまんが 頼んだぜィ」



ブルドーは 痛みに耐えながら やっとの思いで 立ち上がると、屋敷の中へと 戻って行く。

その背を見送った リンクとライアは、互いに顔を見合わせると 北の廃坑に続く 坂道を 見上げた。



『…この坂道を 登った先にある、って言ってたわね。』

「ああ。…向かうにしても そろそろ 燃えず薬の効能が 切れ始める。

…一旦、町の中で 不足している情報と 物資を調達していこう。

何事に置いても まずは 準備、だろ?」



述べようとした答えを すべてリンクに言われてしまったライアは、微笑みを浮かべて 静かに頷く。

 日が暮れ始め 逢魔が時が迫る 町の方へと 歩み出すリンク…。

背後を振り返りながら 歩くリンクの元へ 駆け足で ライアは 近付く。



「…ん?、何 嬉しそうな顔してんの…?」

『…ううん。別に…?』

「…何だよ」

『…ふふっ』

「…?」

『いや…リンク、頼りがいが 出て来たなあって 思ってただけよ。』

「…んだよ、それ。」



リンクは ライアに 褒め言葉を掛けられ 頬を染める。

恥ずかしそうに 頭を掻くと 隣に居るライアの月光色の髪へと 手を伸ばした。



「…ライアの お蔭だ」

『…へ…?』



頭を優しく撫でられたライアの頬は みるみる内に 赤く染まっていく。

リンクは 口角を上げて、屈託のない笑顔を浮かべると 照れくさそうに 先へと進んで行った。



[・・・]



脳内が真っ白になる。

リンクに撫でられた 頭に 自分の手で触れ、してもらった行動を 思い出し、幸せな気持ちを 噛み締める。

そして、嬉しそうに 満面の笑みを浮かべた。





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