偽りの姫君

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ー 天に召します、我が主よ。安寧の世に 光明なる導きを 御示し下さい。 ー



ライアの言葉に 女神像が 聖なる輝きに 包まれる。

発せられた輝きが リンクの身体を包み込むと ほんのりと暖かな 太陽の香りが 鼻腔を霞めた。

リンクを囲うようにして 宙に浮く 8つの克服の証…。

いつもより2倍、力が湧いたのを 感じたリンクは 身体に吸い込まれて 消えていった 克服の証に 自らの胸に手を当てた。















18:リの村



















「…ありがとう、ライア」

『…ええ、気にしないで。これがアタシの”努め”だから』



錫杖を 背に仕舞い、到着したリトの村を 見上げるライア。

岩肌を這うように 木製の螺旋階段が 天へと続いているその村の造りは 羽根を持つリト族ならではの まるで鳥の止まり木のような 造りをしている。

要所要所にあるデッキに 各々の居を構え、生活をする リト族はどこか 怯えたように その羽根を羽ばたかせることなく 地を這って 歩いていた。



「…君たち、観光かな?」



風切羽の槍を携えた 門番の1人、ナズリーが 見慣れないハイリア人である二人を見て 話掛ける。

どうやら 巡回の途中であったらしい。



「あっ…いえ、僕たちは…」

「…悪いことは 言わない。もし観光の客人だったなら もてなしたいところなんだけど それどころじゃない感じなんだよね」

「…と、言うと…?」

アレ、君達にも 見えるだろ?」



ナズリーが示す方向へ リンクとライアも 視線を向ける。

リトの村、遥か上空を旋回している 神獣 ヴァ・メドー

その ヴァ・メドーを見上げながら ナズリーは肩を落としたように 嘆いた。



「…俺たちの真上にいるアレ…。

昔は 村の守り神だったらしいんだ。

それが近頃になって 突然現れたかと思うと 急に上空に旋回し出して…。

今では飛び立とうとする リト族を狙って 攻撃してくるんだ。

お陰で俺たちは こうして地を這うしか 出来ないって訳…。

そんな状況だからさ。観光なら また機を改めるといいよ」

「…そっか。教えてくれて ありがとう。

けど、どうしても この村に用があるんだ」

「…何か 訳ありそうだね。

詳しい話が聞きたかったら 長老の所へ 行ってみな」

『…長老様…?』

「ああ。この村は 一本道だからね。行けば分かるよ」



ナズリーは そう言って、長老の居場所を 教えてくれる。

リンクとライアは 巡回途中である ナズリーへと別れを告げ、村の最上階を目指して 木の螺旋階段を 登り始めた。



「…なあ、ライア…。可笑しいと思わねぇか?」

『…可笑しいって?』



軒を連ねる 店や家々を横目に ひたすら 螺旋状に伸びる 階段を昇って行く。

道具屋である"チュン天堂"の前を通りすがると 店主である 女性のリト族の 心地の良い囀りが 耳を翳めた。



「昔、厄災に飲まれた後…神獣は 何事もなかったかのように 大人しくしてた訳だろ?

それが突然、攻撃してくるように なるなんて…」

『…インパ様が 仰っていたでしょう。時がないって…』

「…それって、つまり…」

『ゼルダ様の御力が弱まっていることは リンクも承知の事実…。

それに反比例するように "彼の者"の力は 増大している、と言うことの 顕れでしょうね』

「・・・」



リンクとライアの歩みは 村の中腹にある アコ・ヴァータの祠へと続く 木のデッキ前で 止まった。



『逸る気持ちを抑えて まずは勇より、知を得るのが 先決』



ライアの言葉に 祠の方へと リンクは 顔を向ける。



『…いってらっしゃい』



神妙な面持ちのリンクの背を トン、と優しく押すと ライアは 微笑みを浮かべた。



『アタシも 成すべきことを 一つずつ、行うわ』



リンクは 少しの微笑みを浮かべると 首を縦に振る。

見送るライアへ 背を向けて…。

アコ・ヴァータの祠へと 歩み出した。



『…それまで、どうか 耐え抜いて……さま…』



…巻き上がる つむじ風に 掻き消され、ライアの声は 天高くへと 消えていく…。

その声を 聞き届けた者は 誰一人として 居なかった…。





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