偽りの姫君

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01:始まりの





見渡す限りの 白き闇ー…

真っ白な空間で 散らばっている光明が ただでさえ眩い辺りを 照らす。

その光明は、やがて 終結し 一筋の光となって "何か"を 形成した。

…人、で あろうか。

蒼き人であろう輝きは、この世の者とは 思えぬほどに 美しく、また 物悲し気にも 見てとれる。



“…ルダ…ゼルダ様…”



“ゼルダ”と呼ばれた少女は 真っ白な闇の中、声の主へと 届かない手を伸ばす。



「待って下さい!」



…声が出ない。

必死に喉元を震わせ 発声しようとするが、努力も虚しく 唇を動かすしか できない



“ゼルダ様…主を導き、必ず貴女の元へ 向かいます。だから…泣かないで”



優しく 囁くその声に 少女の深緑の瞳から 涙がこぼれ落ちる。



「貴女は…?母上…ですか?」



声にならない声で問う少女に 声の主は 首を振る。



“いまは…ただ、彼を待つしかない”



声の主は 遥か遠くにある 台地へと 視線を向ける



“彼を…時を紡ぐあの台地へと導き、聖剣をあるべき場所へ。その為に 貴女のお力を 御返しします”

「私の力…?それって…!」

“もう時がありません。彼の者が…現れる前に…”



語尾がかすかに 聞き取れる程の声量で 声の主は 最後の言葉を 振り絞る



“そして、彼へと 伝えて下さい…必ず、あ…たの…ぇ

「待って…!聞き取れないっ!それに、まだ聞きたいことが…っ!」



蒼き一筋の光は 砕け散り、空へとまるで雨のように 還っていく

1人、白き闇に残された少女は 自身の辺りを 愛しそうに廻る 光の雫へと 手を伸ばす。



「貴女は…還らないのですか…?」



光の雫は もう一回り、少女の辺りを 飛ぶと、胸元へと 吸い込まれるように 入っていった



少女の身体が 蒼き光に 包まれる…



まるで、何かの“力”を 得たように…。

心が陽だまりのような 暖かさをもつと同時に、締め付けられるような 痛みを感じる。



「…貴女は…一体…」



少女は 白き闇の中で、段々と遠退く意識に 身体を預ける

白き闇がさらに 深みを増したように、辺りは 静寂へと 包まれていった。





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