偽りの姫君

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「・・・」



見上げていた先から 何か声が 聞こえた気がして…。

よく目を凝らしてみるも 朝日の逆光に包まれ 何も見ることが出来ない。

 リンクは、何となくではあるが 何故か背中を 押されたような 気分になる。


…鼓舞された時のように 背中が熱い…。


リンクは その声援ならぬ 不思議な感覚に 応えようと 力強く頷いた。



『…リンク?、どうかした…?』

「ん?、あっ、いや…何も…。」



後ろ髪を引かれる思いだが 視線をメドーへと 名残惜しそうに 残しつつ、正面へと 向き直る。

テバが ようやく 頭を上げると、それに続き村の一同も 面持ちを上げた。



「サキ、チューリ…こちらへ」



テバは 妻子を 自身の元へと 呼び寄せる。

瞳に涙を浮かべているサキと 泣きじゃくりながら ライアとリンクへ 飛び付くチューリ…。

小さな白い毛並みを 撫でながら、ライアはチューリを 抱き留めた。



「お前には コイツのことで 恩がある。俺は女が 嫌いだが…。

お前のことは 戦友として 認めてやる…!


ライアに困難が 降り掛かったその時には、何処に居ようと 必ず駆け付けるから 遠慮なく 俺達のこと 頼ってほしい。

もちろん、リンク。お前もだ」

『テバさん…』

「…ありがとう。心強いよ」

「どうやら話は 纏ったみたいですな。」



面々の間に まるで海が割れたかのように 通り道が できていく。

テバは 頭を掻きながら その者へと 声を掛けた。



族長、アンタは家で待っててくれって あれほど言っただろう…。」

「私も 彼等の帰還を 心待ちにしておった故、こうして ここまで 来てしまったのじゃ。

許せ、テバよ」



カーンは リンクとライアの前へ 歩み出ると 深々と頭を下げる。



「よくご無事で…。

神獣 ヴァ・メドーの まことに神々しい姿…。

この眼で拝借する日が来るとは 思いも寄りませなんだ。

言い伝えが確かなら "神獣より放たれし光 厄災を封じ込めん"と 今後この村の守り神となり あなた方と共に 語り継がれていくことでしょう。」

「そんな滅相もない…」

「…リンク、お前は それだけのことを したんだ。

自分に 誇りを持て」

「ホーッホッホッホッ、そうですぞ、末裔様…っと、忘れるところでした。

お礼を差し上げねば、と思い 私は老体に鞭を打って 広場まで来たのです。

これは我々 リト族 皆の想い…。

どうか、あなた様に 受け取って頂きたい。」



カーンは そう述べると、懐から 大事そうに抱えていた包みを リンクへと 差し出した。



「きっと、あなたのお役に 立つことでしょう」



受け取った包みを 丁寧に開いていく リンク…。

包みの中から現れた物。

それは どこか懐かく、見覚えのある 弓であった。



「…〜っ!?、族長さん、これは…!!」

オオワシの弓

英傑・リーバル様が かつて愛用されていたと言われる 弓です。

我らがリト族に伝わる宝…。

ただ宝箱に 眠っているだけでは リーバル様も 悲しまれることでしょう。

どうか、あなた様の側で お役立て頂きたい。」



リト族の皆や カーンの想い、テバの想い…。

そして、リーバルの意思を その手にしっかりと 受け取るリンク。

重たい その弓を、リンクは 大事そうに 抱えると 自身の背後へと 納めた。



「…必ず、無下にしないと…誓います。」

「流石は末裔様…。

その実力は 100年前 リーバル様と共に戦った ハイリア人の英傑様に 匹敵するのでは…。

ただ一つ 違うのは…退魔の剣を 穿いていないこと…」

『…そのハイラルの英傑様が お持ちだったと言う 退魔の剣…、族長様は その剣が 何処にあるか ご存知ですか…?』



後方に控えていたライアは 神妙な面持ちで カーンへと問う。



「…一説によれば 迷いの森に眠る…と、伺ったことが あります。」

「…迷いの森…?」

ハイラル大森林の中にある 迷いの森…。

"深き霧に包まれ、訪れた者に 幻覚を見せるかの如く 森の奥深くへと誘う…。

消えた旅人は 露知れず…。

未だに 消息を経つ者 多けり。"

…単なる 物語の空想の話かと 思っていたわ』

「…それはハイラル大森林の真相の 一節ですね」

『ええ。昔 拝観させて頂いたことが あるの。』

「…流石は 巡礼者様、恐れ入りました。

その見聞があれば 末裔様を 真に 英傑様にお導きになることが できるやも しれませんな」



特徴のある声で カーンは 笑いを浮かべる。

そして 目前に居る2人へと 再び声を掛けた。



「…あなた方には まだ、成すべきことが おありのご様子…。

リトの村 一同、あなた方の旅路に 光が射すことを お祈り申し上げております。」



朝日が昇り始めた空は 抜けるように青く、澄んでいる。

薄い青を携えた空に 見送られながら、リンクとライアは リーバル広場を 後にした。





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