偽りの姫君

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「少しだけ、ココ 寄って行っても 大丈夫か?」



始まりの台地目前にある 林道の中へと 着地したリンクとライア。

着地地点から 双児山の方へ 視線を向けると、少し陰り始めた 空を映し出す 綺麗な湖が 視界へと 入ってきた。



「飲み水、確保しときたくて…」

『もちろん、構わないわよ。』



道なき林道の草を掻き分け リンクは水辺の方へと 歩みを進める。

草の陰で 身を潜めていた ガンバリバッタ達が 忙々と驚いたように 跳び跳ねた。

ライアも続いて リンクの跡を追う。



「…キレイだな」

『ほんとね…』



風のない 穏やかな水面に映る 双児山の光景…。

まさに風光明媚と言える その光景に リンクとライアは しばらく 足を止める。



『リンク、あれ…』

「ん?」



ライアが示す方向に 暖かな光源が 煌めいている。

リンクは 光源へ歩み寄ると そっと、手を伸ばした。



「此処は…確か、ウツシエにあった…」


リンクは 腰元からシーカ−ストーンを取り出す。

淡い蒼の光と共に シーカーの紋様が浮かび上がると 目前に広がる光景と 同様のものが 表示された。

ライアは そんなリンクの姿を見て 式典場跡で行ったように 錫杖を手に取ると 先端を光源へと向ける。



『光よ、此の者を導け』



ライアの声に 呼応するように、集まった光源が リンクの元へと 舞って行く。

リンクの周囲を 囲んだ後、リンクの胸元へと 光源が 吸い込まれていった。







「これから ゴロンシティに 向かいます。

あの神獣と ダルケルの相性を高める調整を行わねば なりません。」



足早に 前を歩くゼルダ姫を 追い掛けながら 数歩後ろを歩む リンク。

従者としての距離を 保つように、一歩下がるリンクを 気に留める様子もなく ゼルダ姫は 歩みを止めずに コモロ池の畔を 歩んでいた。



「何度か動かせたとはいっても まだまだ未知の部分が 残されています。

それでも…あれは人の手で造られたもの。

人工のものならきっと 理解出来ますし 使いようも解ります。

だから私は 必ずあれを 厄災ガノンに対抗できるよう 仕上げてみせます。」



決意の意を込めた ゼルダの歩みが、徐々に落ちていく…。

手元にある シーカーストーンを 握りしめると
悲し気な表情を浮かべる。

リンクも そんなゼルダの横顔を 後方から見つめていた。



「貴方は…その背中の剣を 使いこなせていますか?」



…リンクの背中に 抱えられている 王家の紋章が刻まれた鞘。

勇者の魂と 呼応すると言われている マスターソードに リンクは視線を移した。



「その剣に宿るという内なる声…」



ゼルダは 後方にいるリンクへ 視線を移すように 顔だけを振り向かせる。



「それが…聞こえているのですか…?」



ゼルダに浮かぶは 悲し気に、苦悩に悶える 表情であった。

…まるで、いつの日にか見た 見覚えのある横顔で…

ただ ポツリ、と呟くように…。

リンクへと述べた。







『…大丈夫?』

「…っ、あ…ああ…」



我に返ったリンクの様子に ライアは心配そうに 顔を覗き込んでいる。

リンクは シーカーストーンを 再び腰元へと戻した。



『ゼルダ様の苦悩…、貴方にも通ずる物が あったんじゃないかしら…』

「…え?」



ライアはそう述べると リンクの前から コモロ池の水辺へ 近付く。

ニーハイブーツを脱ぎ、スカートの裾を捲ると 揺蕩う水面へ 足を入れた。



「…ライアにも、見えたのか…?」

『…?』

「俺の記憶…。」

『…聞こえたの方が 正しいかな。』

「…じゃあ、"力"が戻ったってこと?」



リンクは 出会った頃に言っていた ライアの言葉を思い出す。

―…“力”を蓄える為に 巡礼をしている…―

過去に聞こえていたという その"導きの声"が ライアにも聞こえるように なったのではないのか…。

リンクの疑念を 晴らすように、ライアは答えた。



『まだまだ、完全ではないわ…。でも…』

「…でも?」

『"光の声"が教えてくれた。

 100年前の 貴方を包んでいた 光の記憶…。

…ごめんね、盗み聞くつもりじゃ なかったんだけど…』



ライアが 水辺で足をパシャパシャと鳴らすと 水飛沫が舞う。

陽の光を反射して輝く 水飛沫が、ライアの周りに落ちると 風のない水面へ 小さな白波が立っている。

そのまま 背後に居るリンクの方を 振り返った。



『あの時のゼルダ様…まるで、今の貴方のようね』

「…」

『決意と苦悩に苛まれ 本来の自分を見失ってしまっているかの様…』



水辺に映る ライアの影が、水面に揺れる。

陽の陰りと共に 双子山からの 吹き下ろした風が 水面を撫でると 揺蕩う そよ風の声が 頬を撫でた。



「…今の俺…か。」



リンクは 頬を撫でる そよ風に、耳を傾ける。

…カカリコ村で 決意した、あの覚悟に偽りはない。

しかし、先に起こった 逃げるしかなかった 己の不甲斐なさに 改めて今の力のなさを 痛感し、苦悩しているのもまた 事実である。



「"あの時"には 分からなかった 姫様の気持ち、今なら分かる気がする…」



リンクは 震える拳を そっと、握り締め 空を見上げた。



『…きっと、その苦悩の先に 何かが 見出だせるはずよ。

貴方なら きっと…』



青空が 次第に黄昏へと 染まっていく。

リンクは いつも 背を押してくれる ライアの側へ 歩み寄る。



「…ライア」



水辺で、まるで少女のように 足を濡らすライアの腕を掴み、自身の方へ 引き寄せると ぎゅっ、と…。

その細く 柔らかい身体を 背後から 抱き締めた。





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