偽りの姫君

□07
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「なあ、ライア」

ん?』

「…まだ、起きてるか。」



屋敷を後にし、カカリコ村にある宿屋で 仰向けに寝そべりながら 高い天井を仰ぐリンク。

間仕切り板の向こうで 寝返りを打つライアの気配を感じながら リンクは右の腕を天へと翳した。



『…ええ、起きてるわ…』



鈴の音のような ライアの声は、虫の音と溶け合い まるで音楽を奏でているかの如く 聞き心地が良い。

その声に耳を傾けながら リンクは続ける。



「…聞いてくれるだけで いいんだけどさ。」

『うん』

「…俺さ、覚悟…できてなかったんだ。」

『…覚悟?』

「ああ。インパさんに言われたんだ。"命を掛ける覚悟を決めろ"って。

命を掛けるって どういう事かな、って。

インパさんの話を聞きながら、ずっと 考えてた。」



ライアは静かに 寝返りを打つと、間仕切り板の向こうに居るリンクの方を向く。



『義を見てせざるは 勇無きなり』

「…?」

『人として、なすべきことを知りながら それを行わないのは 勇気がないためである。という意味よ。

貴方は人として、ゼルダ様を救いたいと 思っているんじゃない?

覚悟を持つのは リンク、貴方の気持ち一つ、だと 思うけど』

「義を見てせざるは勇無きなり、か…。」



リンクも 間仕切り板越しに居る ライアの方へ 身体を向ける。



「…ありがとう、ライア」



返答の代わりに 聞こえてくるのは、ライアの静かな 吐息…。

リンクは 微笑みを浮かべる。



「…つらい想いをした 君のことも、護りたいな…」



リンクは自身に浮かび上がった "ゼルダを護る"感情とは また別の感情の"護る"に 少し戸惑いながら 深い眠りへと 誘われていった。






07:カカリコ村 
ーインパを訪ねてー fin.








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