偽りの姫君

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「…そうじゃな…何から、話そうか…」



夜も更け、朧月が空の高い位置に 登り始めた頃。

伽話の掛け軸が掛かる上座の麓で、飲み潰れ 寝倒れる村人達の中で インパは静かに 語り始めた。

リンクとライアも インパの話を聞こうと 静かな語りに 耳を傾ける。



「…ハイラル王国が滅びたあの日以降、其方…リンクが目覚める時が来るまで 我もシーカー族を導かねば ならなかった…」











話はまだ、我が執政補佐官として 王家に遣えていた頃の話じゃ。

ハイラル王国で 執政補佐官として 務めていたにも関わらず、まだ年若く 族長としては 未熟者であった我は 王国とシーカー族の存続を 一手に担い、心労が募り切っておった…。

この難局を 如何にして乗り切るか…

シーカー族の中でも 意見が割れた。

先の見えない 行く末に、とうとう我は 倒れてしもうた…


 そんな時、末の妹が特異な能力を買われ年若くして 王国専属の占い師に なった。


ハイラル王国を 導く為に 助言をし、時には軍師の役割を担う妹の名は"プラム"。

まさに彼女は 王国にとって"希望の光"となっていった。


 妹の助言もあって どうにか シーカー族を束ね直すことは出来たが、シーカー族に深く残った傷は 修復するには 至らなかった…

後に彼らは "イーガ団"と名乗り、現代では 厄災ガノンに心酔する者として 活動を広げておる…。


話を戻そう。

今思えば、執政補佐官として遣え 妹の意向を聞きながら 王国に遣える日々は 我を族長として 成長させ、忙しくも 充実した日々であった…。


そんなある日、突然に妹が子を宿したのじゃ。

相手をいくら聞いても 妹…プラムは答えなかった。

 忙しい彼女を支えてやれるように、と 養子として迎えていた シーカー族の娘"パイヤ"を プラムの小間使いに任し プラムの元へ遣わせた。

十月十日が過ぎ しばらくして 娘が生まれたとの 報告が入った。


―…その娘、というのが お主。

そう、ライアじゃ。


ライアが産まれた同日にして、ハイラル王国にも 待望の姫君が産まれた。

姫君は王国の習わしに従い"ゼルダ"と名付けられ、我はゼルダ様に遣えるが故に さらに身を挺して 王国に遣えた。

 忙しい日々で、産まれたばかりのライアの顔を 見に行ってやることも できなかった…。


しばらくして、国事として 招集が掛かり プラムの姿を拝する機があった。

その国事にて、プラムが厄災ガノンの復活を予言した。

プラムの予言に従い、王国と我らシーカー族は 発掘調査や 研究、厄災に対抗しうる手立ての準備を入念に行っていった。



…そんな中、事件は起きた。


厄災信仰のある イーガ団の手筈に嵌り、王国の民から 我らシーカー族に対しての 反乱が起きた。

王国が一丸となって 厄災に対抗しうる力を担う 大切な時期にも関わらず、王命により しばらくの間 発掘調査や研究の手が中断した。


…族長である我が動けば、シーカー族やまだ幼いゼルダ様、民にも危害が及び 厄災ガノンの復活にも 間に合わなくなる…。

そう判断したプラムは 自らを反乱の首謀者として仕立て上げ、罪を被り、自身に汚名を被せることによって 反乱を鎮静化させる道を 選んだのじゃ…。


 事のけじめをつける為には プラムが 王命により、処刑される他なかった…。


…プラムが処刑されると決まった時から パタリ、とプラムの付き人をしていた パイヤや姪であるライアとの連絡も途絶えた。


そしてライアと一度も面通りすることもないままに 時は流れ、ゼルダ様が17歳を迎えた100年前のあの日…

プラムが予言した通り、厄災がハイラル王国を襲った。


…厄災ガノンが 復活したのじゃ…。











「100年前のあの日、パイヤが命を掛けて ライアを連れてきたと 聞いた時にも 大層驚いたが…。

2人に命を息吹いてもらったライアは 我の娘も同然。

そのライアが こうして我の目前に居てくれるとは…。

真、今日は良き日じゃ…。」



インパは 屋敷の窓辺に映る 朧月を見上げる。

リンクとライアも 同様に空を見上げた。


…シズカホタルの瞬きが、空の星へと 昇っていく。


虫の声と共に 耳に響く静寂を感じながら、リンクは 複雑に絡み合う 自身の想いを巡らせた。








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