偽りの姫君

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黄昏が去り、逢魔が時が 訪れる。

村を包む 夜の冷え込んだ空気が、肌に冷たく刺さり、少し 痛々しい程である。

 夕焼けと夜の境目に染まる、カカリコの村…。

女神像の目前で 滝から流れ落ちてきた 清流の泉に 身体を入れている ライアの姿。


 何処で 調達したのであろうか。

白絹の衣に 紅い緋袴で 身を包み、清らかな祈りを 捧げている。

リンクとインパ達が 到着したころには、噂を聞きつけた 村中の人々が、ライアと泉を取り囲んでいた。



『天に召します、我が主よ。安寧の世に 光明なる導きを 御示し下さい。』



全意識を集中させ、ピクリとも動かなかったライアが、夕闇に染まる空へ向けて 錫杖を掲げる。

すると、村中を舞っていた シズカホタル達が集まり 一斉に光を放ち、この世の物とは思えないほどに 美しい光が 泉の周囲を照らし出した。


 …錫杖の先端に 一匹のシズカホタルが 舞い降りる。







ライアの錫杖の先端で 一際大きな光を放つシズカホタル。

その姿が 青い炎へと変化するのを 見届けて、ライアが錫杖を 泉周囲の松明に向ける。

錫杖の先に灯る 青い炎は、導かれるかのように 各松明へと 次々に 灯っていった。



『リンク…こちらへ。』

「…へ、俺?」



ライアは 背を向けたまま リンクを呼ぶ。

リンクは 抱えていた インパに視線を移すと、インパもリンクに視線を合わせ 静かに頷き、ライアの方を向き直った。

その仕草を確認した上で インパをボガードに預け、リンクは 呼ばれたライアの元へと向かう。

 泉の中央にある 石板の上にリンクが到着すると同時に リンクの身体周りを囲いながら 克服の証が4つ 円を描くように 宙を舞う。

何事か、と周囲を見渡しているリンクに 構うことなく ライアは祈りを続けた。



『"勇"の者へ、生の息吹なる 光明を』



ライアが 言葉を述べると、リンクの周囲で宙を舞っていた 克服の証は、リンクの身体内へ 吸い込まれて行く。

 克服の証が 体内に入ってくると リンクの重怠かった身体が 嘘のように、軽くなっていった。


…太陽が、西の空へと 沈み行く。


陽が陰ると共に 青く灯っていた炎は 順に消え、錫杖の先端に留まっていた シズカホタルも 何事もなかったかのように、再び闇夜の空へと 舞い戻っていった。



「…何が…起ったんだ…」



未だに 狐に包まれたようで。

まだ、夢の中に居るような感覚を持ったまま リンクは きょとん、とした表情を 浮かべている。

 リンクだけではない。

ライアを囲んでいた 村の人間でさえも、歓喜の騒然に 包まれている。



「ライア…。我がよ…よく、戻った。」

『…インパ様、御初に御眼に掛かります。ライアに ございます』

「お帰りなさいませ!ライア姉様!いつもお話をお伺いしていました故、一度お会いしとうございました!」

『…貴女は、パーヤね。…パイヤに瓜二つ…。まるでパイヤと再会できたかのようだわ』



ライアとの出会いを喜ぶ、インパ達…。
ボガードや、もう一人の警備であるドゥガンまでもが 歓喜に涙を 浮かべている。



「…え、どう言うこと…?、?…待ってくれ、状況が全く読めない…。」

『ごめんね、リンク。混乱させてしまって…』



困惑しているリンクに ライアは申し訳なさそうに述べる。

ライアの手を握りながら、インパは村人ちを集めた。



「ささ、込み入った話は 屋敷でしようぞ。

 ボガード、ドゥガン!宴の準備じゃ!パーヤとココナにプリコ、手伝ってくれるな?」

「はい!」

「わーい!」「やったー!」



ココナとプリコ、と呼ばれた 小さな少女達は 引率するパーヤと共に 屋敷へと向かう。

プリコよりも 少し大きいココナは、住居の方を指差し 両手一杯に 調理器材を抱えて 屋敷の方へと 歩んで行った。



『インパ様』

「…なんじゃ、ライア」

『…御母様にも お会いしたかったです…』



哀し気な表情で ライアが言うと、インパもライアに吊られ 哀愁の面持ちを 浮かべる。



「我も…もう一度、会いたかった…」

「…」



何とも言えない 沈黙の空気を破るように、インパは 表情を変え、気を取り直す。



「リンク、すまぬが また 手伝ってくれるか」

「…うん」



まだ状況が掴めていないリンクは 再びインパを抱えて 屋敷の方へと向かおうとする。



『アタシも、一緒に…』

「…すまぬ、全く…この年まで 生き長らえて…ほんと、良かったわい…」

『何を仰いますか。
 まだまだ聞きたいお話が 沢山ございます故、もう少しばかり生きて頂かないと…』

「そうじゃな…今日は善き日和じゃ…リンクとも会え、其方にも面通りできるとは…」



リンク達は 宴の準備に勤しむ村人達を背に、屋敷へと 向かって行った。






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