偽りの姫君

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「…やっと、目覚めおったか…」



屋敷内へ一歩、足を踏み入れると 上座で正座している 1人の老婆の姿が 眼に入る。

リンクは 通された屋敷内を 見渡しながら、扉の元で 立ち止まった。



「久しいのお、リンク。すっかり 年を取ってしまったが、覚えておるじゃろ?」

「……」



リンクは まじまじと 老婆の顔を見つめているが、どうしても思い出すことが できない。

首を傾げて 悩ましそうにしていると、老婆が口を開く。



「…なんじゃ、その初めて我を見るような視線は…。我はインパじゃ。インパの名くらいは 覚えておるじゃろ?」



…またしても、リンクは首を傾げて 思考を巡らせる。

そんなリンクの姿を見ていたインパは、何かを察したのか、手で膝を叩き 閃いたかのように、話を続けた。



「…其方、やはり 記憶が…。まあ、いまは むしろ、その方が救いかもしれん。」



インパは、そう述べると リンクへ向けて 手招きをする。



「…リンクよ、もそっと近くへ…」

「…はい」



リンクは インパに招かれるがまま、ゆっくりと 上座へと 歩んで行く。



「…100年前。そう、ハイラル王国が滅びた 100年前のあの時…。

ゼルダ様は 最後の希望として、基方を聖なる眠りに尽かせ、そしてお1人で…たったお1人で厄災ガノンの元へと 向かわれたのじゃ…。

 そのゼルダ姫…其方に向けたある言葉を この我に残された。

そのお言葉を其方に伝える日を 我は100年…待っておった、というわけじゃ。」

「…」

しかし、じゃ!姫様が命を懸け 其方に残した言葉…。そのお言葉を賜うこと…それすなわち、其方も命を掛ける覚悟を決める、ということ。

…とは言え、記憶を失った今の其方に 押し付けることはできん。

 姫様のお言葉を賜う覚悟ができたら また、ここへ来るがよかろう」



リンクは、真実を聞かされ 始まりの台地を旅立ってからと云うもの、常々考えていた事がある。

 今の自分にできることは、何か。

 自らに課された運命に 覚悟を持てるのか。

命を投げ打ってでも…この国に、人に。

自らを犠牲にして 打ち込む勇気が己にあるのか、否か…。



「…少し、時間をもらいたい。」

「…今の己に向き合うのも、よかろう。しかし、時は迫っておる。そう長くは 待てまいぞ」

「…承知しています」



俯きながら、思考を巡らせているリンクに インパは優しく微笑みを浮かべる。



「…それにしても、よくぞ 参られた。もう直に 日も暮れよう。今宵は村で ゆるりと過ごして行くが よいじゃろう。

宿の手配も 済ましておく故、後程訪れると良い。」

「…ありがとう」

インパ様!!



リンクが屋敷の外へ出ようと、後ろを振り返ると同時に 屋敷の扉が勢いよく開き、警備の任に就いていた男が 屋敷内へと 駆け込んで来る。



「…なんじゃ ボガード、騒々しいのう…」

現れました!!

「だから騒々しいと言うとろう!もちっと静かに話さんか!」

「…いや、申訳ない。でも 現れたんです!」

イーガ団でも 現れおったか!?」

「いいえ!!違います!!」

「じゃあ、何じゃ…勿体ぶらずに言え…」

巡りの巫女です!」

「…!?」



インパは驚きの余り、眼を見開き 立ち上がろうとするも 腰が抜けてしまい、立位を取れないでいる。



「インパ様!」 「おばば様!」

「大丈夫じゃ、案ずることはない…。お主らで 巡りの巫女を…あの子を、引き留めてはくれぬか…。少し、話がしたい。」

「しかし…!」



インパは腰を抑えながら 心配そうに見守るボガードとパーヤの手を 早く行け、とばかりに 手を払う。



「…俺が、行くよ。」



離れたところで 様子を見ていたリンクは、インパの元へ駆け寄り その小さな身体を 支える。



「…相、すまぬ。其方、申訳ないが…我を…連れて行ってくれぬか。」

「…いいけど、何処へ?」



インパの腕を 肩へ回し 体制を整えると、リンクはインパを落とさないよう 担ぎ直す。



「村の泉の方へ…」

「あぁ、ひょっとして…」

「なんじゃ」

「…"巡りの巫女"って、ライアのこと?」



インパは 先ほどよりも驚いた顔で リンクを見つめる。



「!? 其方、存じて 居るのか…!?」

「ああ。俺、彼女とここまで来たから。」

「何!?…なら、あの子を目覚めさせてくれたのは…」

「…俺、だけど…」

「…そうか…、そうか…。何と言う必然じゃ…」

「…?」

「頼んでおいてすまぬが 取り急いで向かってくれるか。
 我は早く…会いたいのじゃ。あの子に…ライアに…」

「…分かった。」

「リンク殿、申訳ないが 手を借りますぞ」



リンクと反対の方へ廻ったボガードも リンクと同様に インパを抱える。

焦る気持ちを 抑え、急ぎながらも 歩調はゆっくりと ライアが居るはずの 村の泉へと 向かって行く。

 パーヤは そんなリンクの背中を 頬を赤く染めながら うっすらと見つめ、やがて我に返ったかのように リンク達の背を 追い掛けた。




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