偽りの姫君

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―…



(…どの馬が、良いかな…)



足早に馬の元へ駆け寄り、適度な距離感で 姿勢を低く保つリンク。

少し遠くで群れている馬たちからは 草原の草が物陰となり、リンクの姿は 見えていない。

リンクは 馬を観察するように 一通り、見渡す。



(…ん?、あの馬…)



…群れの中央部に居る、1匹の馬。

燃えるように真っ赤な身体に反して 輝くように真っ白な鬣…。

風を切るように 颯爽と走る姿は、まるで立風のように 平原の草を靡かせている。

リンクは 導かれるように、その馬の元へ近寄っていく。



「…エポナ」



"エポナ"と呼ばれた その馬は、他の馬が 警戒心を向き出しにしながら 逃げ出していく中、リンクの方を振り返り、嬉しそうな表情を浮かべながら 頭をリンクへと 擦り付けた。



「…行けるか?」



リンクがその反応に応じるように、エポナの頭部にある 白い鬣を撫でる。

エポナも頷き、姿勢を低くすると リンクを背に乗せ 颯爽と平原を 双子山馬宿の方へと 掛けて行った。



「"野生馬手なづけ選手権2位"のこの私の記録を塗り替えられる者は そうそうに…」

『…、そうでもないみたいよ』

「何を仰いますか。いくら参加者が 私と兄の2人しか居ないと言えど、そんな簡単に捕まえられると思ったら 大間違い…って、えぇ!?



遠く、平原の小高い丘から 颯爽と赤き馬に跨がり 駆けてくる リンクの姿…。

驚いている2人の目前に現れるまで さほど、時は掛からなかった。



「…信じられません…」

「…で、タイムは?」

1分2秒…!!兄の記録も超えてます…」

『凄いわ、リンク』



嬉しそうに 鳴き声をあげる エポナ。

リンクは エポナから降り、肩を落としながら 驚愕しているフレッサンに 近寄る。



「…ほんと、驚きました…。まさか2分の壁が こんなにもすぐに 破られるとは…。」



フレッサンは 自身のポーチから、紫色に輝く50ルピーを取り出す。



「素晴らしい技術を 魅せて頂いた貴方に。少ないですが、これをお受け取り下さい。」

「…いや、もらえないよ」

「馬への愛情…それに加え、良い"絆"を魅せて頂きました。これは そのお礼です。ぜひ、受け取って 頂きたい」



フレッサンは リンクの掌を握り締めながら 50ルピーを手渡す。



「…何か、悪いな…」



リンクは 戸惑いながらも、その手に渡された50ルピーを 小さなポーチへと 仕舞い込んだ。



「…早速ですが、その手なづけた野生馬 どうされます?」

「…どう、とは?」

「所有馬として 登録されるなら 馬宿協会の登録費用に加え、手綱と鞍もお付けして、20ルピー必要となります。」

「…ぜひ、お願いします。」



先ほど受け取った紫ルピーを フレッサンに手渡す。

受け取ったフレッサンは 懐から赤ルピー1つ、青ルピー2つを手渡すと 笑顔でリンクを 馬宿受付へと 案内した。



「ありがとうございます。では…こちらで、登録手続きを…」



受付で 手続きを取るリンクの背後で、ライアは エポナの方を向く。



『…貴女、エポナって言うの?』



エポナは 少し、怯えた様子でライアから 距離を取る。
警戒しているのだろうか…。
首を少し左右へ振ると 前方に居るリンクの方を向いた。



『大丈夫…怖がらないで。』



ライアはそう述べると エポナの真正面へと周り、鼻頭へ そっと手を伸ばす。
警戒していたエポナだが、徐々に落ち着きを 取り戻していた。



「お待たせ…じゃあ、早速…カカリコ村へ 向かおうか。」



リンクは、エポナの鼻頭を 先ほどのライア同様、毛並みに沿って 撫でてやる。
 何かを感じ取ったように、エポナはゆっくりと 頭を低く下げ、”どうぞ”と言わんばかりに ライアの隣で 屈み込んだ。



『…乗せてくれるの?』



ライアの言葉に エポナは答えるように鳴く。



「どうぞ、ライア」



エポナに取り付けられた 馬宿協会の手綱を 引きながら、リンクはライアへと 手を差しのべた。



『ありがとう』



リンクの長い指に ライアの白く、細長い指が触れる。



「足元、気を付けて」



リンクに支えられながら エポナへと騎乗すると、ライアが落ちないよう、慎重にエポナは立ち上がった。



「…さっき、馬宿の人に聞いたけど、カカリコ村は この峠を越えた先なんだって。夕暮れまでには 到着すると思うよ」

『…そう。』



リンクが想像していたより、暗いトーンで 返答を返すライア。
ライアの様子に リンクは後ろを振り返る。



「…ライア?」

『…いいえ、なんでもないわ』

(…何、考えてんだろ…)



リンクは ライアの思想を気にしながらも 足をカカリコ村へと 進めた。



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