偽りの姫君

□01
2ページ/4ページ






“…ク…ンク…覚まして…”



真っ暗な闇の中を 神々しく照らす まるで太陽のような 暖かな光

そんな光が 美しい声で 誰かを呼んでいる。



“目を覚まして…”



三度程呼ばれた その声に 目を覚ます 青年ー…。

青年が目を開くと その瞳と同じ程に 深い蒼が 目前に照らされている。



“リンク”



リンク、と呼ばれた青年は ゆっくりと 重い瞼を開けると その蒼を左右へと振り 辺りを見回す

蒼々しい光が照らされる 水面は、身体に冷ややかな跡を残しながら どこかへと 吸い込まれていった。

まだ、怠重い上体を ゆっくりと起こす 青年リンクー…

リンクの身体から ひたひた、と 先程まで 身体を浸していた水滴が 冷たい幾何学模様をした石畳の上へと 溢れていく

ー…長い時を経てきたので あろうか。

石畳には 苔が蒸しており、足裏をくすぐる 感覚が 妙に懐かしさを 感じさせる

ここは 一体、どこなのか…

暗闇の中に 奇妙な蒼き光を灯しながら輝く 台座は、薄らぼんやりと リンクを誘うかのように ゆっくり、またゆっくりと 点滅を繰り返している

リンクは 足裏のくすぐったい感覚を 感じながら 自身を誘う台座へと 歩み寄った。

恐る恐る 台座へと手を伸ばすー…

台座は 何かを感じ取ったかのように 蒼き光が円形に回転を始める

台座中央にあった 四角い板のようなものが 手に取って下さい、と 言わんばかりに 台座から浮き出してきた。



“それは シーカーストーン…”



脳内に どこからともなく 響く、美しい声。

リンクは 辺りを見回しながら 声に従うかのように シーカーストーンと呼ばれた それを 手に取る



“永き眠りから覚めた貴方を 導くでしょう”



リンクがシーカーストーンを手に取ると 中央のパネルが光始める

初めて見る物に なぜか懐かしさを覚えながら、リンクは 自身の腰元へと シーカーストーンを 納めた。



シーカーストーンが 納められていた台座は、独りでに 元あった形へと 収まっていく

台座が元へ戻ると同時に 右側にあった壁が 砂埃を巻き上げながら 開くと、今まで 身を置いていた部屋よりも 2倍程広い 新たな部屋が現れる。

リンクは 開けたその部屋へと 足を進めた。



「…これは…」



リンクの視線の先にある 2つの宝箱ー…

恐る恐る 手を伸ばし、開けてみる。



「…服…?」


あちこちすり切れ、永き時を経たかのように 古びたシャツと古びたパンツが それぞれの宝箱に 収納されていた

リンクは そっと、破れないように 注意しながら パンツに 裾を通す。

着古されてはいるが、その分履き心地が 想像より良い服に 一先ず ほっ、と 胸を撫で下ろした

少し袖の短いシャツも羽織り、辺りを見渡すと 先程と同じような 台座が 闇を赤い光で 照らしている。



“シーカーストーンを かざすのです…それは 貴方の道を 開くもの…”



また、どこからともなく 美しく声が聞こえてくる

リンクは 疑うこともなく、声に従い シーカーストーンを 台座へと かざした。

台座が 紅き光から 蒼き光を放つー…




[シーカーストーンを 確認しました]

[ロックを解除します]



「…っ!?…何だ?」



驚くリンクの声と共に 轟音が辺りに 響き渡る

先程とは比べ物にならない程の 砂煙を巻き上げて 大きく口を開けた 扉は、煌々とした 陽の光を 放射線状に撒き散らしながら リンクの頬を照らした。



“貴方は このハイラルを再び照らす光…今こそ 旅立つ時です…”



導きの声に 耳を傾けながら、頬を照らす光に 触れてみる。


ー…暖かな、陽の光…ー

頬を照らす 太陽の暖かさは どこか懐かしく、胸を締め付ける。

このような 陽の光に、前にもどこかで 包まれたような 気がするー…


朧気な記憶を 辿りながら、光の指す方へ足を進める。

水溜まりを飛び越え、段差を昇り、陽の光が さらに大きく 間近となると 目が眩むように 目映い光が 自身の視覚を支配した。



瞳が慣れてから、ゆっくりと 瞼を開ける。



目前に広がる 広大な大地ー…

風に乗り、鼻を掠める 木々たちの香り…

遠くに聳え立つ山々は 静寂を守りながらも 大きく 大地に沿って 隆起している。

足裏をくすぐるのは 先程の苔とは違い、柔らかな 草原の緑たち

美しく風と共に 音を奏でる 番井の鳥たちは、 優雅に のびのびと 大空へと 駆けていった。



ー…自身を見つめる 視線を感じ、ふと 崖下へ 続いている道へと 瞳を移す。

崖下の道から リンクを見つめている、少し大柄な老人…

視線が合うと、老人は リンクへ背を向け、岩に囲まれた 薪の元へと 歩み寄って 行った。



(…俺のこと、知ってるのか…?)



リンクは 何をすべきか、どこへ向かうべきかも 分からぬまま 道の先に居る 老人の元へと 向かうことにした。



.

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ